ぶつけあうドッジボールの疑問

もっと未来につながるボールゲームを行おう

2008年9月7日

★子ども達の表情に楽しさはない
幼稚園でよく見かけるボール遊びといえばサッカー、それにドッジボールである。しかし残念ながら、何度出合ってもドッジボールは心楽しくならない。やっている子ども達自身の表情や身振りに楽しさが感じられないからだ。
先生が「やろう」と言い、親も「ガンバレ」と言うから渋々やっている子が大半のように思える。
お友だちに当たっても痛くないようにと、わざわざ弱いボールを投げる子、逆に手加減なしのボールをぶつけられて辛そうにしている子、とても見ていられない。
人はそもそも、何かをぶつけられるのを嫌うものである。積み木や遊具、本をぶつけ合ったらケガをする。たとえタオルでも「このヤロー!」の気持ちでぶつけられたら心にキズが残る。だから幼稚園では「モノをぶつけてはいけません」と厳しく指導している。なのにどうしてドッジボールはいいのだろう?
「幼児ドッジボール大会」はあちこちで開かれ、親の熱狂的声援で会場は盛り上がっている。しかし熱心に練習したチームと、ふつうにやってきたチームとの力の差は歴然で、まるでオオカミがヒツジを追い詰めるように、強いチームがボールをぶつけ続けていく。非情なゲームと言わざるを得ない。
子どもの心模様に想像力が働くはずの幼稚園が、どうしていつまでもドッジボールを続けているのか理解できない。おそらく慣れによる感性のマヒなのだろう。
動きの悪い子が、いつも真っ先に狙われ、場合によってはイジメに発展するかも知れない。そこまでいかなくても、「みんなにぶつけられた」というトラウマが残る心配は十分にある。
★バスケットやラグビーなら未来がある
ドッジボールを支持する幼児体育関係者は「ドッジとは身をかわすという意味で、ぶつけ合うのが本意ではない。だから漢字では避球と書く。またサッカーと違ってボールを手で操るゲームは幼児期の運動能力を高める上で大事なこと」と言う。
しかし漫画「ドッジ弾平」のおかげで、ドッジボールは一般に「闘球」と書かれることが多くなった。また身をかわすのが本意というなら、勝敗を決める大会の正式ルールが、どうして逃げ延びてコート内に残った人数を比べるのでなく、ぶつけられてコート外に出た人数を比べるのか、矛盾するところである。
「投げる、受け止める」という手でボールを操ることを強調するなら、ほかにバスケットボールやラグビーがある。
「いやあ、バスケもラグビーも幼児には無理ですよ」と幼児体育関係者は先入観だけで判断するが、現に取り入れている幼稚園は多数ある。
昨年、オーストラリアの幼稚園を訪ねたとき、年少の子どもが、遊具の脇に付けられたリングをめがけて、飽きもせずにボールを投げていた。しかも5回に1回くらいは見事にシュートが決まるのである。きっと「お父さんやお兄ちゃんのように上手になりたい」という思いがあるからなのだろう。
それにドッチボールはどんなに上手になっても、その技量が生かせるのは小学校の低学年までだ。それ以上はスポーツとして認められていない。理由は大人のスポーツとしては危険だからだ。
その点、バスケットボール、ラグビーなら中学、高校、大学、社会人、そしてオリンピック、世界選手権へとつながっていく。幼稚園で練習したこと体験したことが、プロ選手として花咲くことがあるかも知れない、夢と未来があるスポーツである。
幼稚園および幼児体育クラブ関係者には、心痛めるばかりのドッジボールを速やかに中止し、バスケットボールやラグビーの導入に取り組んでもらいたいと願うばかりだ。
★アメリカでもドッジボール敬遠の動き
こんな話を東京のT先生にしていたら、「同じことを書いているアメリカ人がいる」と言って、FAXを送ってくれた。数年前、日本の経済専門誌に載ったコラムで、経営コンサルタントのロッシェル・カップ氏の「変わる体育授業」という一文だ。最後にその一部を紹介しよう。

◇……ドッジボールは地域によって「キラーボール」「マーダーボール」と呼ばれている。子どもによる学校での大量殺人事件が次々と起きている中、こういった暴力的なニュアンスのあるゲームは適切ではないとの声が多くなり、すでにテキサス州、バージニア州、フロリダ州、ニューヨーク州の小学校は、このゲームを完全に禁止した。
運動が得意な子どもが長くプレーし、運動の苦手な子どもがすぐにアウトになって立って見ているだけというのはおかしい、という意見も強くなってきた。スポーツのあまり得意でない子どもこそ、もっと運動を必要としているのだから、ドッジボールのようなゲームで体育の授業を嫌いになるのを避けたいという考え方である。
子どもの精神に打撃を与えるようなゲームの時代は終わりつつある。それによって、アメリカのビジネスの競争精神も変わっていくことだろう。……◇
幼稚園情報センター代表 片岡 進