看過できない数々の不穏な要素

論客が指摘する「こども園構想」の問題点

民主党政権の強権的姿勢を食い止めよう

2011年2月14日
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松田茂樹(まつだしげき)

松田茂樹(まつだしげき)
第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部主任研究員。1970年東京生まれ、一橋大学社会学部卒。

八木秀次(やぎひでつぐ)

八木秀次(やぎひでつぐ)
高崎経済大学教授。1962年広島県生まれ、早稲田大学法学部卒。

北條泰雅(ほうじょうひろまさ)

北條泰雅(ほうじょうひろまさ)
全日本私立幼稚園連合会副会長、東京都私立幼稚園連合会会長、みなと幼稚園理事長&園長。文科省の幼小接続調査研究協力者会議委員、中央教育審議会臨時委員などを務める。

★幼稚園口封じの政府方針案
 民主党政権が是が非でも実現をめざす「幼保一体化・こども園」構想。子ども・子育て新システム会議の議論は二転三転し、法案の国会提出も3月から6月にずれ込む見通しだが、とりあえずその骨子となる政府方針案が提示された。
その中身は、
①期間を限定せず幼稚園制度は今のまま残す。
②保育所制度も維持するが、保育所として残れるのは0~2歳の乳児施設だけとする。
③それ以外の保育所、認定こども園は新制度の「こども園」に移行する。
④私学助成、保育所運営費など所要の財政は「幼保一体給付」に一本化し、市町村を通じて利用者数と利用実態に応じて各施設に公平に給付する。
というのが主な柱。3~5歳の幼児教育部分は現在の「幼・保二元」から「幼・こ二元」に変わるわけである。
 幼稚園制度が維持され、幼保の補助金格差も是正されるということなので、私立幼稚園としては表だって反対が言いにくい状況になった。つらいところである。逆に保育所は、こども園への転換を通じて2009年春にまとめられた保育制度改革が強行される形になるため反発を強めている。補助金のさじ加減(財政的インセンティブ)で遠からず幼稚園もすべてなし崩しにする民主党政権の腹づもりは変わってなく、とりあえずはうるさ型の幼稚園の口をふさいで、先に保育所を整理しようという戦法である。そのため、当面は保育所団体の頑張りに期待をかけるというのが実状だ。

★国民の緊急課題ではない
 そうした中、活躍めざましい若手論客から「こども園構想」の問題点が指摘されている。ここではそのいくつかを紹介しよう。
 「検討が不十分で制度案がコロコロ変わる。幼稚園と保育所は廃止するという当初案に反発がでれば、『こども園の制度はつくるが幼稚園と保育所の制度は存続』などと別案が出る状態だ」と、民主党特有の猫の目体質を批判するのは松田茂樹氏(第一生命経済研究所主任研究員)だ。
 2010年12月3日の毎日新聞「私の社会保障論」(原文は添付PDFファイル)では、「幼稚園と保育所は長い歴史によって理念から園庭、調理室に至るまで異なる」「主要先進国でも幼稚園と保育所は別々だ」「財政破綻のリスクがあると言われるフランスの家族手当金庫をモデルにして大丈夫か」と指摘した上で、「何より問題は、幼稚園と保育所を利用する国民が蚊帳の外であることだ。そもそも子育てする側からみれば、幼保一体化は緊急課題ではない」と論じている。
 こども園推進派の民主党議員は「マニフェストに書いてあるのだから、国民との約束として原案どおり実現させるのが当然だ」「突然提起したわけではない。野党時代に党内で十分議論して到達した結論だ」と言うが、国民にも現場関係者にも知らせず、こっそり議論して得た結論を「マニフェストだ、政権交代だ」と言って押しつける。それが民主党の政治主導である。松田氏は幼保一体化問題を通じてその姿勢を指摘し、「拙速主義に乗ってはいけない」と警鐘を鳴らしている。

★羊の皮をかぶった共産主義政策
 もっと鋭く本質を突いているのは高崎経済大学の八木秀次教授で、雑誌『正論』(産経新聞社刊)の2011年2月号に「『こども園』は羊の皮をかぶった共産主義政策だ」と題する論文を寄せている(原文は添付PDFファイル)。
 2010年11月17日の全日私幼PTA連合会「こどもがまんなかフォーラム」から始まる八木論文は、「まずは最初に結論を決めておいて、それを関係者に強権的に飲ませようという姿勢が民主党の体質だ。民主党には『民主(国民主権原理)』はあっても『自由(権力の抑制)』はない」と糾弾する。
幼児教育の意義を認めない民主党は、まさしく幼児教育の足りなかった人たちの危険な政治集団ということである。
 そして八木氏は「幼稚園と保育所を一律に『こども園』に移行するよう強要するのはなぜか?」と問うて、「そこには端的に『幼稚園つぶし』、もっと言えば『専業主婦つぶし』という特殊なイデオロギーが控えている」という答えを見いだしている。「こども園構想」の奥深い危険性がそこにある。「子どもが元気に遊んでいれば、幼稚園でもこども園でもどっちでもいいんじゃないの」などと鷹揚に構えてはいられないのである。
 さらに八木氏は、事実上の民主党代表と言われる仙谷由人代表代行(前内閣官房長官)の「日本の戦後社会が専業主婦という病気をいつまでもひきずっているのが大問題」の発言を引用した上で、「(彼らの認識は)女性は結婚後も子育て期も働くべきだということ、言い換えれば専業主婦を家庭から駆り出して労働力として活用するということ、そして子どもは三歳になれば、親元、特に母親の元から離して子ども同士の社会をつくってやらなければならないということだ。このような認識にはマルクス主義の労働価値説やエンゲルスの思想が影響を与えていることは間違いない」と幼稚園関係者が一番心配していることをずばりと述べている。
 優秀な女性を労働力に吸収し、経済活性化で起死回生の逆転劇をねらう民主党にとって「こども園構想」の実現、というより「幼稚園つぶし」の実現は是が非でも成し遂げなくてはならない命題なのである。

★子どもへの観点がまったく違う人々
 もう1人、身内の論客を紹介しよう。全日本私立幼稚園連合会の北條泰雅副会長である。2005年の教育基本法改正、2006年の学校教育法改正は組織全体の結束力、三浦貞子会長(当時)の強靱な政治的パイプが大きな力であったが、北條氏のねばり強くも時には烈火のごとく主張する論理と発言力があったからこそ実現できたものである。
 その北條氏は東京都私立幼稚園連合会の機関紙「都私幼連だより」2011年1月号の巻頭挨拶で次のように述べている(原文は添付のPDFファイル)。
 「政権交代の政府にあっては、(着実に積み上げてきた)幼児教育重視の国家戦略は消え失せ、検証の時期に至っていない認定こども園を打ち捨てた。新しい制度に統合しようというなら、これまでの幼稚園教育の修正すべき問題点がどこにあるのかを、先ず示すことが最低限必要なはず。それがないのは常識外れの乱暴な話と言うほかない」
 「私は基本制度ワーキングチームで、教育の制度である以上、学校教育体系全体への配慮が必要であることを強調し、その前提として子どもの最善の利益を擁護する立場に立つべきこと、子育てや子どもの教育の第一義的責任は保護者にあることなどを主張しました。幼稚園教育に携わる者にとっては異論があるはずもないものです。(ところが)このような観点にまったく立たない人々が少なからずおられることを、遅ればせながら私は知らされました」
 ベテラン論客のやり切れない嘆きであるが、それはつまり、今まで多くの人が教育や子育てを考え、ひとつひとつ丹念に積み上げてきたものが、まったく考え方の違う人達の手によって根こそぎ壊されようとしている危機感を意味している。
 これら論客の指摘から言えることは、民主党政権の「こども園構想」は決して許してはいけないということである。やるのなら白紙に戻して最初から議論をやり直すべきだ。各幼稚園においては、こうした反対論拠をもう一度認識して、身近な国会議員、県会議員の理解を得るよう努めてもらいたいものである。

(添付資料)
※松田茂樹氏の「毎日新聞」コラム(PDFファイル
※八木秀次氏の雑誌「正論」論文(PDFファイル
※北條泰雅氏の「都私幼連だより」年頭挨拶(PDFファイル
幼稚園情報センター・片岡 進