★小学校での英語活動がスタート
2011年4月から公立小学校では、5・6年生が週1回の英語活動を必修化する新しい教育プログラムがスタートした。賛否両論を引きずっての船出ではあるが、これが日本の英語教育をどう変化させるか、あるいは幼稚園での英語活動にどんな影響を与えるか注目される。
そんな折、独特の教育技法で子ども達に英語と日本語を教えている(株)ラボ教育センター(時本学社長/本社=東京新宿)は2011年4月10日(日)、東京一ツ橋の日本教育会館で創業45周年記念のシンポジウムを行い、英語教育の意義などを議論した。
ラボの独特な教育技法とは、①ネイティブではなく日本人女性が教師(テューター)を務める、②幼稚園児から大学生まで異年齢のサークル形式(ラボパーティ)で切磋琢磨する、③英語と日本語による身体表現(テーマ劇)を通じて英語力、コミュニケーション力を鍛える、の三点。そのパーティを主宰する教師約600人が集まった。パネラーは言語学の大津由紀雄氏(慶應大教授)、発達心理学の内田伸子氏(元お茶の水女子大副学長)、教育学の佐藤学氏(東京大教授)の専門家三人にテューター代表の熊井とも子氏(横浜市)が加わって行われた。
★日本語の上手な人は外国語も堪能
まず取り上げられたテーマは「日常的に必要としない英語を日本人が学ぶ意味は何か?」。英語教育に関わる者にとっては常に明確にしておかなくてはいけない論点である。
大津教授は「それは母語(日本語)を相対化することである」と言う。「母語と外国語は異質なものではなく、言語という同質なものであって個性が違うに過ぎない。外国語を知ることで日本語特有の性質を知ることができ、その結果、日本語をより良く使えるようになる。それが“言葉への気づき”である」と指摘する。
内田教授は「コミュニケーションはまず聴くことから始まる。相手の様子、表情をよく見て、耳を澄ませて心の中の声を聴くことにある。そこに必要なのは日本語でも英語でもない共通の言語だ。そうした人間交流の基本、原点を教えてくれるのが外国語だ」と言う。
佐藤教授は「日本の文化は長い間、漢文の素養で支えられていた。今、それに代わるものが英語だろう。日本語の文章が上手な作家、たとえば大庭みな子、古井由吉、丸谷才一さんなどはみんな外国語が堪能だ。これからの日本語はどこかで外国語とセットで学んでいかないと力も品位も生まれてこない」と述べた。
熊井テューターは「世界にはいろいろな国があることを知り、違う国の人と交流し友達になりたいという強い気持ちを子ども達に育てたい。その足がかりになるのが英語だと思っている」と現場ならではの明快な論点をあげた。
★専門家は小学校の英語に否定的
誰もが英語教育の意義を高く認めているわけだが、専門家の三人は小学校からの英語教育には否定的で、「母語の性質を体得できていない段階で外国語を学ぶことにはまったく意味がない」「歌と踊りと決まり文句という英語活動は時間の無駄」「英語教育を大事にするなら中学・高校の教育内容をもっと高めるべき」「音程の悪い音楽を聞くことで音痴になるのと同じく、意味がないどころか害になる」「やるのなら日本語と合わせて総合的言語活動にすべきだ」などの意見が相次ぎ、実際に幼児、小学生に英語教育を行っている人たちに厳しい問題提起をする形になった。
しかし一方、この日のシンポジウムでは、幼児から大学生まで約60人が演ずる古事記の物語「国生み」の舞台が披露され、小さい子ども達が精一杯に努力して大きい人のレベルに近づこうとする姿を目の当たりにし、低年齢児の言語教育の成果を見た思いがした。
★幼稚園が新しい英語文化の原動力に
英語教育への関心が高まる中、幼稚園で英語を学ぶ子どもは年々増えている。そこには、小さい時の英語体験が、大きくなってからの抵抗感を薄めてくれるのではないかとの親の切なる願いが反映されている。しかしその体験も小学校の間は途切れてしまうため、実用的に生かされることはないだろうと思われていた。
ところが小学校で英語が始まると、低学年に英語の時間はなくても、校内には英語の掲示物が現れ、外国人の先生とも出会うことになるので、幼稚園で学んだ英語が生かされる可能性は高まる。それはおのずと幼稚園での英語活動の中身にも影響を及ぼすことになるだろう。また高学年までの空白期間を埋める活動が幼稚園で継続される傾向も強まることが予想される。日本の新しい英語文化をリードする原動力のひとつに、幼稚園が位置づけられる可能性は高いと言えよう。
幼稚園情報センター・片岡 進