官僚主導で動き出す政策の深層

こども園構想に潜む文科省の思惑は何か

私立幼稚園の準公立化で歩調合わせを

2011年10月16日

★新システムに積極的な官僚スタッフ
 民主党政権で三人目の野田佳彦首相。どんな舵取りをするのか注目されるが、鳩山、菅の前任二人とはまったく違う実直な庶民タイプであるため「そこそこの支持率を保って意外に頑張る内閣になるかも知れない」との声も聞こえる。それによって停滞した震災復興が進むことを期待したいが、一方、私立幼稚園関係者にとって気になるのは「こども園構想」の行方である。
 野田首相が官僚との協調路線を打ち出したため、震災復興、円高対策、財政赤字縮小の優先課題以外の政策は「官僚主導」で進められる可能性が高い。「幼保一体化・こども園構想」については、7月末「中間とりまとめ」が行われ一応の方向付けができた。この内容の周知・啓発に内閣府スタッフが張り切って動いているのは、そうした政権の空気変化を読んでのことと思われる。
 張り切っているのは内閣府だけではない。一緒に構想を練り上げてきた経済産業省、厚生労働省、そして文部科学省のスタッフも、新システムの実現に向けて積極的な姿勢を見せている。
 経産省は、労働力不足を外国人に頼らず、能力優秀な母親、主婦を駆り出すことで穴埋めしたいとの思惑がある。これは2009年12月に構想が提起されてからの一貫した基調でもある。厚労省は、この改革に乗って懸案の保育制度改革を進め、費用コストが少なくて利用しやすい保育所(こども園)にしていきたいとの思惑だ。これに比べると文科省が、こども園構想をどう考えているのかは見えにくい。労働政策、経済政策、社会保障政策ばかりが前面に出て、教育政策の観点が脇に押しやられているからだ。しかし状況をよく透かしてみると、文科省も大きな思惑を持って関わっていることが見えてくる。
 それは、できればこの機会に私立幼稚園の体質を改め、準公立の形にもっていきたいという願いである。
 日本の幼稚園教育は園児数で約80%を私立幼稚園が担っている。幼児教育でこれほどの私学比率は他の国に例がなく、日本独特だ。私立幼稚園関係者にとっては「我々が日本の教育のスタートラインを支えている」と誇らしいところだが、実はこれが文科省にとっては一番の泣き所でもある。ひとつは幼小接続がうまくいかず、小一プロブレムを引き起こす問題になっていることがある。振れ幅の大きい私立幼稚園の独自教育が、幼小の連携・接続を乱していると思われているからだ。

★OECD諸国との遅れを取り戻すためにも
 もうひとつは、幼児教育の重要性と教育投資の有効性を認識したOECD諸国が幼児教育の充実に多額の公費を投下しているのに、その真似ができないというジレンマである。これはOECD諸国の幼児教育機関がほとんどが公立という事情がある。だから存分に公費を投入でき、国の教育方針を徹底することができる。しかし日本では、補助を増やしたくても私学の独自性を考えるとおのずと限界がある。それをあえて踏み越えて補助を増やすこともできるが、それでは私立幼稚園がますます独自色を強める結果になりかねないとの危惧がある。かといって出生減、保育所志向の現状では公立幼稚園を急増させることもできない。
 そこで市町村が実施主体となる新システム(こども園構想)に私立幼稚園を組み込めば、私立幼稚園は市の委託機関的立場となって独自教育を制約することができる。また市教委の意向に沿った教育をするかどうかで補助金(こども園給付)のさじ加減もできるので、実質的に準公立化し、公費の大幅増額もできるようになる。それが結果的に子どもそれぞれに対する公費投入の格差を是正するとの長期展望だ。
 「私立幼稚園に通う子ども達に公費の恩恵が増えるならいいじゃないか」「教育成果が低下した日本の現状を考えれば、今さら私学の独自性、自主性を言っている場合じゃない。国全体のレベルアップに動くのに良い機会だ」との声もあるが、独自性と建学の精神を大事にしてきた私立幼稚園にとっては、準公立化は生死を分ける政策とも言えるもので、その視点は明確にしておかなくてはいけない。
 そうは言っても多くの私立幼稚園関係者は「私立幼稚園の一番の理解者は文科省だ」「文科省が私立幼稚園を守ってくれるし、またその責任もある」と思っている。実際そのとおりで文科省に頼らざるを得ないのが現実だが、文科省の奥にはそうした深慮遠謀が渦巻いていることも頭の片隅に入れておいてほしいものである。
幼稚園情報センター・片岡 進