社会保障と税の一体改革特別委で一括審査

どうなる?総合こども園法案の国会審議

法案取り下げか、あるいは大幅修正か

2012年6月11日
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泉 健太(いずみけんた)

泉 健太(いずみけんた)
民主党衆議院議員。京都3区・当選3回。1974年7月生まれ札幌市出身。立命館大法学部卒。党政調会・子ども男女共同参画調査会事務局長、国会対策副委員長。内閣府大臣政務官などを歴任。

野田聖子(のだせいこ)

野田聖子(のだせいこ)
自民党衆議院議員。比例東海(岐阜1区)・当選6回。1960年9月生まれ北九州市出身。上智大外国語学部卒。帝国ホテル社員、岐阜県議、郵政大臣、内閣府特命大臣などを歴任。50歳で出産した1児の母。

馳 浩(はせひろし)

馳 浩(はせひろし)
自民党衆議院議員。比例北陸信越(石川1区)・当選4回。1961年5月生まれ富山県矢部市出身。専修大文学部卒。元高校教師、元プロレスラー。参議院議員、文部科学副大臣などを歴任。妻は高見恭子。

★アッと驚く泉健太氏のとり違い認識
 日本の幼稚園教育は、2006年の教育基本法、学校教育法の改正で、その重要性が明確に位置づけられた。そこに至るまでの関係者の努力、労苦はとても語り尽くせない。しかしそれもつかの間、民主党政権の闇雲な横暴によって、幼稚園の存在そのものを否定することに通ずる「総合こども園」関連三法案が国会に提出され、衆議院で審議が続いている。
 審議の場は「社会保障と税の一体改革特別委員会(中野寛成委員長)」。消費税引き上げ法案など計七法案の一括審議となっているため、総合こども園の中身、問題点が十分に審査されないのではないかという懸念がある。また消費税引き上げ法案がさまざまな政局で揺れているため、果たして今国会で「総合こども園法案」が成立するのかどうか、見通しが立たない状況にある。まさに「国会は一寸先は闇」(元自民党副総裁・大野伴睦氏の言葉)であるが、ここでは2012年5月10日、委員会審議に先立って行われた衆議院本会議の代表質問から闇の中を手探りしてみたい。
 小宮山洋子厚労相の法案趣旨説明に続いて最初に質問に立ったのは民主党の泉健太氏。子ども子育て新システム検討会議の作業グループで最初の主査を務めた人である。それだけに思い入れも強いのだろうが、冒頭、「全国組織の幼稚園団体、保育所三団体をはじめ子育て、教育、保育に関わる各層の代表者が、ワーキングチームで1年半にわたり丁寧な議論を重ねた。その意見と叡知の結晶がこの法案である。委員全員の認識と方向性は共有されている」と述べたことには、実際に会合に参加していた委員からも「ええ!そこまで言うの?」と驚きの声が上がったはずである。
 たしかに会合は数多く開かれたが、構成委員の数も多いため、発言は1人1回だけで5分以内に制限された。それも、どんなに問題点を指摘しても意見応酬の場面はなく、単に言い放しで事務局が文案に丸め込むという形式が繰り返された。丁寧な議論にはほど遠かったのである。

★「幼稚園受難」ではなく「子ども受難」だ
 文案の中身も、幼稚園団体は「経済政策、労働政策を優先させ、子どもに視点を置いていない。まったく容認することはできない」と反対姿勢を貫いた。保育所団体や専門家も多くの問題点を指摘し、「まだまだ議論が足りない」と訴えた。しかし消費税引き上げ法案と抱き合わせにする必要性から議論は打ち切られた。それが実情なのである。民主党政権の横暴と取り繕いの体質が相変わらず続いていることを泉健太氏が明らかにした。
 さらに泉健太氏は、「今は幼稚園受難の時代だ。保育所はどこも列を成しているのに、幼稚園は定員の七割しか集まらない。PTA活動など幼稚園にも良いところはある。その良さを継承するためにも、幼稚園をやめて総合こども園に乗り換えるのが得策だ」と言ったのである。これには幼稚園関係者の多くが呆気にとられ、そして怒った。
 多くの子どもが保育所に長時間預けられてしまう今の状況は、「幼稚園受難」ではなく「子ども受難の時代」なのである。子育てを気軽に他人に任せて、長時間預けてしまう風潮を是正すること、母親が心で泣きながら子どもを預けて働きに出なければならない状況を改革すること、それこそが政治の使命であり、子育て支援、少子化対策の政策でなくてはいけない。その意識のとり違いにも気がつかない。これが悲しいかな民主党政権の本質である。

★「法案取り下げこそ最善」と野田聖子氏
 これに対して自民党の野田聖子氏は手厳しく批判した。
 「国家の最大課題である少子化問題に、自民党はさまざまな政策を試みてきた。しかし有効な結果を残すことができなかった。これが2009年総選挙で敗北した原因だ。これに対して民主党は月2万6千円の子ども手当を掲げ、何よりも少子化政策を優先させることを打ち出した。そこまで言えることに、敵ながら羨ましいとさえ思った。しかし民主党はそれを反古にした。甘言を弄して票を集めた民主党に少子化対策、子育て支援を語る資格はない。この法案を取り下げることこそ最善の選択だ」と。
 「そのとおり!」の声が四方八方から聞こえてくるが、消費税引き上げの理由付けになっている法案でもあり、民主党政権がそう簡単に取り下げるとは思えない。しかし「総合こども園法案を取り下げたら、消費税引き上げ法案に賛成してもいい」と自民党から提案があったら話は違ってくるはずである。
 消費税率を10%にすることは、民主党のマニフェストには書かれていないが自民党の政権公約には明確に書かれている。この際、自民党としては民主党のフンドシを借りてでも税率の引き上げを果たしたいところである。しかし自民党がコツコツと積み上げてきた
幼保政策、支持母体を台無しにするような法案を通すわけにはいかない。となると、このあたりでの取引も可能性はあると言える。

★「認定こども園の見直しこそ」と馳浩氏
 もう一人、自民党の馳浩氏は、もっと現実的で妥当性のある政策論議をぶつけてきた。
 「2006年10月から法施行された認定こども園制度がある。すでに900余の幼稚園、保育所が認定こども園になり、その評価は高い。後に続こうと努力している施設も多数ある。法律では5年後に見直しを行い、問題点を改善し制度の充実を図ると定めているが、見直しは行ったのか?」「2009年に途中見直しを行った小渕優子少子化対策担当大臣(当時)は、5年後の本格見直しに向けての報告書を作成した。その報告書に沿って改善すれば、何も現行制度を白紙にして新しい制度をつくる必要はない」と突っ込んだ。
 これまた「そのとおり!」の声が四方八方から聞こえてくるが、「認定こども園制度は自公政権が残した盲腸のようなもの」と言い捨てた小宮山洋子厚労相は苦虫を噛み潰しており、5年後の見直しは頬かむりしてやり過ごす構えだ。しかし、前政権が作った法律を無視していい理屈はない。そんな横暴がまかり通れば、法治国家における政権交代の意味が問われることになる。同法案はそうした重大性をはらんだ法案でもある。
 この点では、政府側の責任者である岡田克也副総理(社会保障と税の一体改革担当大臣)が、「言われてみればそのとおりだ」と考え方を柔軟に変えてきているので、「総合こども園」創設法案が、「認定こども園」改正法案に衣替えする可能性も大いにある。
 いずれにしても、6月21日の通常国会会期切れまでに決着することは難しい状況であり、大幅な会期延長か継続審議になることが見込まれる。この法案の行方が見えてくるにはまだ時間がかかりそうだ。
衆議院本会議の詳しい様子は下記のインターネット審議中継(ビデオライブラリ)を参照のこと。

※120510衆議院本会議代表質問(衆議院ネットTV)

幼稚園情報センター・片岡 進