★「二代目トラック野郎~幼稚園でもご意見無用」
2008年3月に倒産した新風舎。1980年に15歳の詩人少年が創業し一時は社員400人の大出版社に成長したが崩壊するのも早かった。この本は同社が最後に募集した第28回新風舎出版賞で特別賞を受けた作品である。
「~幼稚園でもご意見無用」のサブタイトルが気になって買ったが、思わぬところで私立幼稚園の現実を見せられ、問題提起と激励をもらうことになった。
主人公の大空健太郎は札幌生まれで警察官の息子。子どものうちに両親を亡くし(父親は殉職)、4歳年上の姉・久美子と二人で苦難の人生を歩む。やがて長距離ドライバーとなり菅原文太演ずる初代トラック野郎・星桃次郎から「一番星」を譲り受けて二代目を襲名。一方、気丈な姉は、痴漢の罪を着せられた気弱な幼稚園園長を救ったことが縁で園長の妻となった。
その幼稚園は札幌の山の手にある創立100年を超える「愛川幼稚園」。創設者は最後の屯田兵。開墾や商売は苦手だったが子どもが好きで、近所の子や孤児を預かっているうちに幼稚園になった。
息子5人を戦争で亡くしたが、残った実の息子と孤児を養子にした息子が協力して幼稚園を発展させた。しかし実の息子の長男が理事長、養子の息子が園長になった三代目でつまづいた。
園長は創業祖父の理想を引き継ぎ、障害児も受け入れる自然豊かなほのぼの幼稚園をめざすが、経営優先の理事長は富裕層を対象にしたお勉強型幼稚園を強行する。現実の幼稚園にも思い当たる歴史と問題構造である。
理事長の腹黒さにつけ込んだ暴力企業が幼稚園の乗っ取りを画策する中、バス運転手さんが病で倒れた。姉の頼みを断り切れずに臨時運転手を務めることになったトラック野郎が、子どもたちのヒーローになりながら暴力企業軍団を一人で追放し、自閉児を育てながら懸命に生きるベテラン幼稚園教師と結ばれるというドラマだ。
筋書きはともあれ、幼稚園に関する描写が的確で鋭い。常に理想と現実の岐路に立つ私立幼稚園の姿をさらりと提起し、職員室の風景もまるで見てきたかのように書いている。自閉症児とのかかわりも生々しい。
巻末の参考文献を見ると、トラック野郎部分は多数あるのに、幼稚園部分は学研の障害児教育に関する本1冊だけだ。磯谷さんという著者は今も運送会社のドライバーとのことだが、もしかして家業が幼稚園なのかも知れない。どなたか知っている人がいれば教えてほしい。それはともあれ幼稚園経営者にとって為になる息抜き小説と言える。
幼稚園情報センター 片岡 進