全埼私幼連教職員大会で講演

八木教授が説く「教育再生と幼児教育の目標」

それは“人間形成と国家形成者の育成”にある

2013年12月3日
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八木秀次(やぎ・ひでつぐ)
高崎経済大学地域政策学部教授(憲法学、法思想史)。(一財)日本教育再生機構理事長。
1962(昭37)年3月生まれ、広島県尾道市出身。早稲田大学法学部卒。フジテレビ番組審議委員、産経新聞正論メンバーなども務める。

★昔の子ども達の明るさと礼節
 民主党政権による空白と混乱を取り戻すため、安倍政権は今、経済成長、財政再建、震災復興、外交防衛……数々の難しい課題に取り組んでいる。そしてもうひとつ、教育再生という大きな課題もある。安倍首相は2006年の第一次安倍内閣で教育基本法、学校教育法を改正し、家庭教育、幼児教育、私学教育の重要性にライトを当てた。それを具現化するためにも教育政策には並々ならぬ意欲を示し、国力を高める国家戦略に教育再生は不可欠だと訴えている。
 しかし「教育再生って何ですか?」と問われて明瞭に答えられる幼稚園関係者はそう多くない。そこで(公社)全埼玉私立幼稚園連合会(平原隆秀会長=春日部成就院幼稚園)は2013年8月29日(木)、埼玉会館で行われた教職員大会に高崎経済大学の八木秀次教授を招き、「教育再生と幼児教育」をテーマに記念講演を行った。この八木教授こそ、首相就任前の安倍晋三氏らと勉強会を開いて教育再生の言葉と中身を伝授し、自ら日本教育再生機構の理事長を務めている人だからである。
 再生とは「失われたものを復活させる」あるいは「過去にあったものを生き返らせる」の意味である。それには再生すべき具体的イメージがあった方がわかりやすい。第一次安倍内閣で設置された教育再生会議の提言は、㈰徳育と体育の充実、㈪学力アップ、㈫教員の質向上、㈬教育委員会・学校体制の改革、㈭大学・大学院の改革、㈮社会総がかりでの対応などをあげているが、どこをどう再生させるかのイメージが今ひとつわかりにくい。古き良き時代の教育を想起させることへの国内外の誤解を恐れたとも言える。
 この点で八木教授はひとつの切り口を提示した。それは安土桃山時代から江戸、明治、昭和初期まで続いた日本の伝統的な子育てである。この時代の子ども達は、家族や近所の人たちに愛されて、子どもらしく伸び伸びと育ち、一方では高潔で礼儀正しい一人前の人間だったと言われる。日本に長く滞在した外国人が、日本の子ども達の素晴らしさに驚嘆した話は数多く残っている。
 その要因は、昔の子ども達は大人と一緒に生活したり行動することが多かったので、いろいろな大人から薫陶や教えを受けたからだと言われる。子どもも、さまざまな大人を観察する中から範とする人物を見つけ、その生き方を真似た。「宮本武蔵」をはじめ多くの時代小説に見られる光景だ。ところが今の子ども達は、多くの大人と日常的に接する機会、環境が減ってしまった。これがひとつの再生ポイントであり、幼稚園が意識すべき点でもある。
 一見すると「昔は良かった」の懐古主義にも聞こえるが、明治時代の生活・教育スタイルに戻そうというわけではない。今も昔も変わらない教育本来の目標と方法をしっかり見つめ直し、その本質を実践することにある。
 教育の目標が個人の能力の発見、個性の尊重、人格の完成にあることは言うまでもないが、一方で、教育基本法にあるように国家・社会の健全な形成者を育成する目標がある。この両者がしっかりバランスしていないと社会は混乱し、国力は衰退する。すでに日本は“衰退途上国”と指摘されており、それゆえ教育再生が急がれる。

★日本を見習ったアメリカの教育再生
 八木教授は教育再生の先行事例を紹介した。アベノミクスならぬレーガノミクスを行った1980年代のアメリカである。戦勝国として国力と権威を誇ったアメリカだが、1970年代後半にその立場を失った。象徴的事例は基幹産業である鉄鋼と自動車で日本とドイツに抜かれたことだった。さらにソ連のアフガン侵攻、イランの米国大使館人質占拠と寝耳に水の事件が続いた。自信を持っていた産業力と情報力が崩壊したのである。これに一番驚き、失望したのはアメリカ国民だった。その大人達の姿を見て、自由奔放な教育を受けてきた若者は暴力、麻薬、セックスに浸り、学校は荒れ、学力は低下した。
 このままの教育ではアメリカはますます衰退するとの危機感から、カーター大統領に代わって登場したレーガン大統領は「アメリカが一番輝いていた1950年代を思い出し、アメリカ人の誇りと自信とヤル気を取り戻そう」と国民に呼びかけた。まさに教育再生宣言である。そして敗戦国日本の教育を見習った。たとえば制服、生徒手帳、校則、必修科目などである。さらにさかのぼって「修身」「教育勅語」の精神も取り入れた。戦前の日本の修身教科書は、世界中の偉人のエピソードをまとめて道徳規範を示していた。「正直」についてはワシントン大統領の桜の木の話を取り上げていたが、アメリカがそっくり頂戴したことは言うまでもない。
 この結果、アメリカは国力を回復して現在に至る。この間、戦後の日本はアメリカの教育思想を真似たために、1970年代のアメリカと同じようにネジが緩んでしまった。そこで安倍首相は教育再生の旗を振るわけだが、この日米の反転関係も歴史の妙と言えるだろう。
 教育再生には何が必要か。「幼児教育です!」と八木教授は強調する。学校教育法に記された幼稚園教育の五つの目標(㈰基本的な生活習慣を養い身体諸機能の発達を図る、㈪集団生活を通じ協同の精神と規範意識を養う、㈫社会生活、自然に対する理解と思考力を養う、㈬言葉の使い方を導き、相手を理解する態度を養う、㈭豊かな感性と表現力を養う)が達成できれば、国家・社会の健全な形成者を育てることができるということだ。それができるのは幼児期であり、それゆえ世界各国が幼児教育に力を入れる所以である。
 いま日本の幼児教育は制度改革のさなかで揺れ動いているが、この教育の原点を見据え、日本民族が蓄えた伝統的な教育技法に習えば、新制度に翻弄されることはないと感じた講演会だった。

付録:八木秀次教授の講演の様子(YouTube)


幼稚園情報センター代表 片岡 進