藤田喜一郎氏の新刊経営論を読んで

AKT48が奏でる「私立幼稚園経営塾」

幼稚園が輝き続けるための必携本

2013年5月19日
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『AKT48・私立幼稚園経営塾』/藤田喜一郎著/学校法人藤田学園刊/B6判270頁/売価2000円。

『AKT48・私立幼稚園経営塾』/藤田喜一郎著/学校法人藤田学園刊/B6判270頁/売価2000円。

藤田喜一郎(ふじた・きいちろう)

藤田喜一郎(ふじた・きいちろう)
福岡県・久留米あかつき幼稚園理事長&園長。久留米市私立幼稚園協会会長。福岡県私立幼稚園振興協会経営研究委員長。元・全日本私立幼稚園連合会経営研究委員長。
1957年12月生まれ久留米市出身。明星大学文学部・心理教育学科卒。音楽の造詣が深く、久留米市民オーケストラの団長を務めるほか地元FMラジオ局でクラシック番組のディスクジョッキーも努める。趣味は福岡ホークスの熱烈応援。

★愛知私幼連への連載メッセージ
「AKB48」ではない。あくまで「AKT48」である。新しいアイドル合唱団でもない。福岡県・久留米あかつき幼稚園から全国の私幼仲間に発信された48篇のメッセージである。「久留米あかつき幼稚園ならAKTじゃなくKAYじゃないの?」という声も聞こえてくるが、それでは面白くない。これまで『ジュニアのたわごと』『波乗りジュニア』『こぶたぬきつねこ』などの本を出してきた藤田喜一郎氏のシャレ心を受け止めてほしい。
と書名は軽いが、中身は貴重な内容がズッシリ詰まっている。これからの時代、私立幼稚園が輝きを放ちながら生きていくための必携本だと推薦する。
藤田先生は失敗を含む自らの経営実践にさまざまな経営哲学を混ぜ込み、独自の経営論を育んできた人である。文章も面白いが語り口調がまた楽しく、講演に呼ばれることも多い。2009年1月、(社)愛知県私立幼稚園連盟(伊藤園子会長)の園長研修会で講演した折、若手経営者から「藤田先生の経営論をもっと知りたい」との声が高まった。そこで同連盟の会員専用ウェブサイトに毎月1回、3年間にわたって藤田先生から原稿を寄せてもらった。その36篇のメッセージに同園の先生方の原稿12篇を加えたものである。
内容は三章立てで、第1章は親の後を継いだ若い園長に手紙形式で経営の心得を伝授する。いわば入門編である。明星大学(東京都日野市)で幼児教育を学んだ藤田先生は、岡田正章先生(元・日本保育学会会長)の秘蔵っ子でもあり、学究の道も期待されていた。しかし病身の父親(学園創設者)を助けるため、卒業と同時に幼稚園の現場に入った。修行もつかの間、2年後に父親が亡くなった。24歳にして学園の経営責任者になったのである。それゆえに若気の至りの失敗も多く、彼のたくましさを育んできた。この点が若手経営者の心に響く部分でもある。

★最も重要な後継者の使命とは
第1章で私が印象に残ったのは、「最も重要な後継者の使命は、創立者(先代)の意思を受け継ぎ、時代にマッチさせるとともに、さらに深めたり向上させたりすることです。若者にわかりやすく、一言で表現するとブラッシュアップ(磨き上げる)なのです」という部分だ。不易流行と言わずにブラッシュアップと言うセンスがいい。
さらに「文字化・文章化」することで、職員の認識と方向をリードすると例示した上で、「青二才の私は、今は亡き創立者のご威光にすがった。創立者はこういう幼稚園を実現したかった。先代は常日頃からこういうことを大事にしていたなど、多少の脚色を加えても故人ですから、クレームの心配もありません」と続くところで思わず吹き出した。
私の師匠の1人に昭和女子大二代目理事長の人見楠郎氏(元・全国学校法人幼稚園連合会会長/故人)がいる。私学振興助成法の成立を牽引したと同時に、斬新なアイディアと実践で日本の私学経営をリードした人だ。深夜のキャンパスを二人で歩いていた時、人見先生は「この学園を経営しているのは私じゃない。死んだ養父(学園創設者)の亡霊だよ。私がこれをしたい、と言っても職員は動かない。だけど先代がこれをしたいと言っていた、と言うと動くんだ」と言った。人見記念講堂もボストン昭和女子大も亡霊のおかげで出来たという。時間と場所だけに「気味の悪いことを言う先生だ」と思ったが、後にその意図がよくわかったものである。

★合う人と出会い、もっと合う人に育てる
第2章は職員の採用と育成。経営論は入門から基本へレベルアップする。「幼稚園経営で一番大事なことは園児の確保ではなく、職員の確保だ」とは昔から言われていることである。しかし今、日本中の私立幼稚園が職員の確保に苦しんでいる。そこで、このテーマにすべての論点を集中しているのである。
要は、「自分の幼稚園に合う人(教員志望者)と出会い、自分の幼稚園を選んでもらう。そしてその人をもっと合う人に育てる」ことに尽きるという。幼稚園経営者は「保護者に選んでもらう」の意識はあっても、「学生に選んでもらう」の視点は弱いので改めたいところである。
自分の園に合う人がどれほどいるかは、経営トップの人間性の幅によることは言うまでもない。藤田先生も「カギを握るのは各園の理事長・園長(トップ)の考え方です」「トップの考えを構成するのは人生観、社会観、労働観そして死生観ではないでしょうか」「トップ自身の考えを、現場を担う先生たちに語り続けなければなりません」「年齢が若くともトップである以上は語る責任があるのです」と書いている。
たしかに職員の採用、園児の確保が順調な幼稚園では、トップが職員、保護者、地域の人々に、時には教育論、時には芸術論と実によく語っている姿を思い出す。
「だからこそトップは不断の勉強が欠かせない」と藤田先生は続け、「もし先生たちに、1年に10冊くらいは本を読みなさいと言うなら、トップは最低でもその10倍の100冊は読破すべきです」「それ以上に大切なのが、人の話を聞くことです」とハードルを立てる。忙しさにかまけ、読書量の減った理事長、団体の研修会だけでお茶を濁している園長には耳の痛い話である。 藤田先生の本を読んだり、話を聞いていると、たくさんの言葉を上手に使っていることに気づく。それも、誰でもわかる平易な文脈の中に、パッと光る端的な言葉を織り込んでいる。だから職員、保護者の心に言葉が残るのだろう。長年にわたる読書量、人の話を聞いた量が熟成してきたものである。20代、30代の後継者には是非とも見習ってほしい。

★職員チームワークの秘密
第3章は「先人と異業種に学ぶ経営哲学」である。ユーモア溢れる文章ながらも、第2章までの行間には「このくらいの思考力、行動力のないトップは身を引いた方がいいのではないか」と言っているような気がする。そのまま当てはめると私立幼稚園経営者の8割方が交代することになりそうだが、第3章に登場する諸氏には藤田先生も「足元にも及ばない」と恐れ入っているので、ちょっとホッとさせられる。
最後、11人目の先人が吉田松陰である。松下村塾は小さな村の80人弱の塾生から日本の歴史を変えた人物を多数輩出した。磨けば光る人間はどこにでもいるということである。そしてこれまた、松陰の言葉と行動力が若者を磨き上げたことがわかる。読み終えたとき、「よおし、うちの幼稚園も我が町の松下村塾になるぞ」と志を立てる若者も多いと思う。老いも若きも、ぜひ手にとってもらいたい本である。
ところで12人の先生からのメッセージである。「AKT48」を完成させる苦肉の策かと思ったが、これがスパイスとしてよく効いている。藤田流経営論が、どんな形で先生たちに浸透しているのかがわかる。と同時に、この大らかで生真面目なチームワークはどこから生まれてくるのだろう、とも考えさせられる。もちろん、この本にもその秘密があちこちに散見できるが、せいぜい半分である。野球の話、社内報の話など残りの半分は『月刊・私立幼稚園』の経営講座、幼稚園レポを参考にしてもらいたい。
なお『AKT48・私立幼稚園経営塾』をご希望の方は直接、藤田学園・久留米あかつき幼稚園へご連絡ください。なお同書の売上金はすべて東日本大震災で被災した幼稚園に寄付されます。(akatsuki@fujitagakuen.ed.jp)(FAX:0942-38-2859)
本の注文ならびに藤田喜一郎氏への講演依頼については幼稚園情報センターでも取り次ぎます。(yochien-joho@coffee.ocn.ne.jp)

※『AKT48・私立幼稚園経営塾』立ち読みコーナー「目次、本文の一部(冒頭部分)、著者あとがき」(PDF)
※久留米あかつき幼稚園ホームページ

幼稚園情報センター・片岡進