★子どもを邪魔者扱いする日本の実情
全日本私立幼稚園連合会(吉田敬岳会長)は、2009年11月から「こどもがまんなかプロジェクト」という全国キャンペーンを始めた。
「子はかすがい」「子に過ぎたる宝なし」などの言葉はよく使われるが、それはどうもタテマエだけで、実際のところ社会はそれほど子どもを大事にしていないのではないかという疑問がある。
たとえば周辺住民から「子どもの声がウルサイ」という無茶な苦情に悩まされている幼稚園は少なくない。電車の中で泣き出した赤ちゃんの母親に、露骨にイヤな顔をしたり、時には「静かにさせろ!」と大声を出す大人もいる。6歳未満の子どもが入れない美術館、レストランはあちこちにある。
逆に深夜でも平気で子連れ客を受け入れる居酒屋、ファミリーレストラン、バーガーショップがある。経営者や従業員の子ども観が疑われる。「こどもがまん中」どころか「子ども我慢中」が日本の実態と言わざるを得ない。
「保育所増やせ」の大合唱も、「子どもの最善の利益」「子どもの幸福」「母親の喜び」を無視した話であり、そんな社会状況を放置したままで少子化対策の鐘を鳴らしたところで虚しく響くばかりである。
そこで、そうした根本的疑問を社会に問いかけ、「子どもにとっての豊かな生活環境とは何か」を改めて考え、国民の意識を大胆に変えていこうというのが「こどもがまんなかプロジェクト」である。家庭はもちろん、地域、街、会社で「常に子どもを真ん中において物事を考えよう」と訴える。それも10年がかりで進める息の長い運動である。
幼稚園でなければ発想できない運動であり、日本中の私立幼稚園が知恵を出し合って盛り上げていくものと思っていた。ところが、スタートから4ヶ月が過ぎたというのに動きは重く、足音は聞こえてこない。いくら「焦らず、ゆっくり」と言っても、スタート地点で考え込んでいては話にならない。
★深夜社会、24時間社会を是正すべし
「運動論についての議論が足りなかった」「告知が拙速で、都道府県団体での周知説明が行われる前に各園に募金要請、運動事例の通知が届き、現場が混乱した」などが停滞の要因と指摘されている。そのため、一般100円、教職員500円、園長1000円の募金がなかなか集まらず、「金がなくては戦はできぬ」状態になってしまったようである。
たしかに進行不手際の影響は少なくないが、問題はそこではない。この運動の骨もしくは軸が見えないことである。理念はわかるが、具体的に何を目指すのか、何を実現目標にするのかがわからない。だからつかみ所がなく、どう理解していいのか、どう協力していいのかわからず各幼稚園が戸惑ってしまったのである。
全日私幼連が各園に配布したパンフレットには、各幼稚園、各地区、各都道府県で具体化してもらいたい運動のモデルがいくつか示されている。たとえば「我が子が生まれてきたときのエピソードを募集する」「その感動を歌にして“生まれてくれてありがとうソング"を作る」「子ども達の誕生日を地域で祝うイベントを行う」「幼稚園ごとにオリジナル体操を考案する」「子どもが撮影した面白い写真を募集する」「子どもが真ん中度の高い人、企業を地域団体で表彰する」……などである。
たしかに幼稚園流のアイディアを混ぜ込んでいけば、面白いものに発展する可能性を感じさせる事業だ。しかし、全日私幼連として目指している肝心の骨がわからなくては、そうした個別の運動もどう絡んでいけば良いのかわからなくなってしまう。
骨とは何か。それはたとえば「どこの家庭も夕方7時には家族揃って夕飯が食べられる社会にしよう」「終夜営業のコンビニ、レストラン、テレビ局は規制すべし」というようなことである。1970年代の日本社会にふつうにあった光景なので、何も荒唐無稽な話ではない。「こどもがまんなか」へのアプローチは、古き良き時代を取り返すことにも通ずるものである。
24時間社会に慣れた人たちからは袋だたきに会うだろうが、満身創痍になる覚悟がなければ運動は実らないのが常だ。そして「子育てこそ人間にとって最も尊く重要な仕事である」ことを繰り返し社会に訴えるのである。
こうした運動の骨が見えていれば、各園、各地区で行う運動もちゃんと関連づけができて、大きな運動へのうねりができてくるはずである。全国団体が打ち立てる目標は何かをはっきりさせる議論から、「こどもがまんなかプロジェクト」を再始動させてもらいたいものである。
※プロジェクトの詳細は下記を参照のこと。
http://www.youchien.com/themes/youchien/kodomo_campaign.html
幼稚園情報センター代表・片岡 進