患者様・お子様・保護者様の疑問

相手は信頼し合う仲間であるはず

事業のためのお客であってはいけない

2009年5月17日

★使っているうちにマヒしてくる
 東京の街を歩いていて左写真の「患者様専用駐車場」の看板に出会った。「なんだこりゃ!このクリニックは言葉を知らないのか?」と呆れた。
ふつうなら「様」をとって「患者専用駐車場」とすべきだろう。いや、熱や痛みを抱えた患者本人が運転してくることは少ないだろうから、「外来専用駐車場」となるのが一般的だろう。ところが病院に行く機会の多い知人に訊いてみると、最近は「患者様」の表記が多いという。病院内の掲示、送達文書ばかりでなく、会計や薬で呼ばれるときも「片岡さん」でなく「片岡様」になるそうだ。
どうやら10年近く病院に近づかない生活を送っているうちに、病院は、トイレを借りに来ただけの人にも「お客様」と腰を屈めて呼びかけるデパートの文化に染まってしまったようだ。
もし私が病院に行って「患者様」と呼ばれるような扱いをされたら、医者も看護師も信用できないと思い、おそらく二度とその病院に行くことはないだろう。それほどこの「様」には微妙なニュアンスが込められているのである。
しかし思い返してみると、同じ間違いを幼稚園でも見かけることに気がついた。「お子様」「保護者様」「お母様」の表記である。園案内パンフ、入園説明書、連絡お便り、園だよりの園長コラムなどで見ることが多い。見るたびに違和感を覚えていたが、何度も見ているうちに感度が下がってきたようでもある。同じように病院の「患者様」も、見慣れてくるうちに病院関係者も利用者も違和感を薄めてしまったのかも知れない。
しかし、病院にめったに行かない私が「あれ?」と思うように、幼稚園と接する機会の少ない人が見ると、「へえ、私立幼稚園ってやっぱりそういう感覚なんだ」と誤解を生むことになりかねない。
デパートでは誰にでも「お客様」と呼びかけ、食堂には「お子様ランチ」がある。もしそれを「お客さん」「お子さんランチ」とするデパートがあったら、「は何と横柄なことだ。社員教育がなっていない」と思うことだろう。
提供するサービスに対価をもらうという点では、幼稚園の保護者、園児も広い意味で「お客様」と言えるだろう。しかしそこには大きな違いがある。デパートのスタッフが「お客様」「お子様」と呼びかけるのは、良い印象を持ってもらって、少しでも高い品物を買ってもらいたいという気持ちがあるからだ。互いの信頼関係を超えた、揉み手愛敬の商売根性が顔を出しているとも言える。
しかし、幼稚園が行う教育活動、子育て支援サービスは幼稚園と保護者の間のしっかりした信頼関係があって成り立つもので、そこには経営感覚はあっても“商売根性”は微塵もないはずである。
★相手を見ない丁寧さが誤解を生む
 医者と患者の関係も同じだと思う。だから病院が「患者様」と言ったり、幼稚園が「お子様」「保護者様」と言うのはおかしいのだ。必要以上にお金をもらっている後ろめたさがあるのではないかと、いらぬ誤解を生むばかりである。
それではどう表現したら良いのだろう。
呼びかけ文なら「保護者各位」で十分。少し丁寧に言うなら「保護者の皆様」「母親の皆様」「お母さんへ」となる。「皆様のお子様」の表記は「皆さんの子ども」で良い。名前を呼ぶときは「○○さん」「△△くんのお母さん」とすれば良い。
「横柄だ、不遜だ」と思われないよう、相手に丁寧に対応しようという姿勢は大事だが、ひとつ言葉の使い方を間違えると大きな誤解と不快を生むことになる。
私のような立場の者が、幼稚園の人達から先生づけで呼ばれることがある。幼稚園に出入りしている営業マンが、誰かれかまわず「先生」をつけることも多い。これなどは丁寧そうに見えて、相手をまるで見ていないことになる。
市会議員から国会議員まで、おしなべて議員を先生と呼ぶのもおかしい。○○園長先生、△△理事長先生と敬称を重ねるのもおかしい。「○○議員」「○○園長」で十分だろう。国会中継を見ていると、答弁する大臣が、質問する野党議員を「○○先生」と呼ぶことがあるが、「こっちが下手に出ているんだからいい気になるなよ」と脅しているようですこぶる不快である。
どの世界でも、中に入っていると感覚がマヒし、それがふつうだと思うようになってくる。「そこで第三者評価だ」と言っても、同じように感覚がマヒした人間が見ても気づかないだろう。「患者様」病が蔓延している所以である。「そんなことはない。少なくとも私は正常だ」と言う人ほどその傾向が強いものである。半年あるいは1年に1度でいいから幼稚園を点検して、おかしいと思うことを遠慮なく言ってくれる友人を持つこと、それが大事なのである。
幼稚園情報センター代表 片岡進