「世襲亡国論」への反論

正しい世襲が社会を再生させる

しかし幼稚園の家業体質は改めよう

2009年6月14日

★世襲が文化を育み、社会秩序を守った
 「世襲」をめぐる論議がかまびすしい。発端は永田町だ。政治家の世襲など今に始まったことではなく、日本の議員は国会から市議会、自民党から共産党まで大半が世襲で、いま世襲でない議員も、当選を重ねれば新たな世襲を始めるのは間違いない。麻生内閣は、閣僚17人のうち11人が世襲議員だそうだが、国会議員の大半が世襲なのだから、さもありなんだ。
それなのに世襲批判がわき上がるのは、このところ赤城徳彦、安倍晋三、福田康夫、中川昭一、麻生太郎、鳩山邦夫……と物議をかもす世襲議員が相次いだからである。その結果、「世襲で出てきた人間はロクなもんじゃない」という見方が広がり、「世襲亡国論」が堂々とまかり通るようになった。
しかし世襲はそんなに悪いものだろうか。
世襲とは「その家の地位、職業、財産を子孫が守り継続すること」であり、これは士農工商の全分野で日本文化に深く根付いてきた。それによって伝統芸や職人技が継承され、暖簾(ブランド)が守られ、志が引き継がれてきた。つまり日本の文化を育み、社会秩序を守ってきたのが世襲である。
「継続は力なり」の原点もここにあり、家業を守り発展させていくために、後継者は知恵を絞り努力して新たなエネルギーを生み出してきた。したがって跡取りには優れた資質と能力が求められ、厳しい試練が与えられた。世襲議員に対する批判の高まりは、そうした親族・身内(派閥)・組織(政党)による鍛え方のタガが緩んだということであろう。それは政治家に限らず、人間を育てる社会の教育機能が故障したことである。もはや世襲云々の話でなく、日本民族の存亡の危機である。これを立て直すには、正しい世襲、厳しい世襲へネジを巻き直すしかない。
★公教育機関としての体質改善を
 私立学校、とりわけ私立幼稚園にも世襲は色濃く反映されている。一大決心で先祖伝来の土地・財産を寄付して学校法人を設立したのだから、創設者の血の流れる人に経営の舵取りを任せたいと思うのは人情である。それは社会福祉法人や医療法人にも共通するが、寄付行為の相対的大きさでは学校法人が一番だ。
したがって経営の世襲は社会通念上問題がないし、建学の精神を引き継ぎながら、時代の変化に柔軟に対応していくという点でも、決断の早い世襲のオーナー経営者は適任である。しかも幼稚園の仕事というのはある意味職人技でもあり、その感覚、呼吸は親の背中をじっと見つめてきた子どもがよく心得ていると言える。
しかしこれが時々やり玉にあがり、監査だ第三者評価だと締め付けがくるのは、世襲ではなく「家業的体質」の問題だと言える。何人もの家族、親族が幼稚園で生活の糧を得ている実態が多々あるからだ。
たしかにかつては、父ちゃんが理事長兼事務長、母ちゃんが園長、兄ちゃんが主事兼バス運転手というような「三チャン経営」で幼稚園の経営が成り立ち、一家の生活も何とか成り立った時代があった。しかし補助金が充実した今は、そこまでする必要はないし、職員に占める家族の割合が多くなるほど“公教育機関としてそれでいいのか?”という疑念が深まることを自覚しなくてはいけない。
ましてや“幼児教育無償化”の議論が高まっている折である。このへんをクリアにしないと、「教育機関には補助するが家業には補助しない」と県や市の締め付けがますますきつくなってくるだろう。
★長男か次男か、はたまた跡取り娘か
 もうひとつは、理事長または園長として経営を引き継ぐ人物の問題。家族はもちろん、職員、保護者、地域の人達が見て「この人なら適任」という人が後を継いだかどうかである。これがなかなか難しく、千年の昔からお家騒動の火種になってきた。
それを防ぐため、徳川幕府は長男相続のルールを作り、それが現代の世襲文化にも強く残っている。もちろん長男が後を継いで何の問題も起こさない例は多いが、問題を起こしたり経営が行き詰まる場合も多々ある。兄弟で凄まじい争いを演ずるケースも珍しくない。
「長男がいいのか、次男がいいのか、はたまた跡取り娘がいいのか……」。親(経営者)は私立幼稚園のさまざまな将来状況を考えて、誰が一番適任であるかを的確に判断し、厳しく鍛えあげることが肝要だ。そして後継者の資質に問題を見つけたときは、情け無用に切り捨てる覚悟も必要である。
資質・能力に問題のある世襲政治家が選挙で落ちるように、世襲経営者も社会のフルイの中で自然淘汰されていく。だから悪い事業体は残らないので心配ないとも言えるが、そうならないように健全に生き延びることが世襲であることを忘れないでほしい。
世間の人々にとって、家族関係、親子関係のもっとも身近なモデルのひとつが幼稚園経営者の家族である。教育者らしく質素倹約、勤勉努力、笑顔爽快の姿をありありと見せ、正しい世襲を行って、日本社会の再生に貢献してもらいたいと願うばかりである。
幼稚園情報センター代表 片岡 進