★子どもの楽園は緑のカーペットから
陽射しがやわらいだ秋の園庭。子ども達は芝生の上に輪になって座り、先生のお話を聴き、歌を聴く。いつものように先生がギャグをかますと「ギャハハハハ」と芝生の上を転げ回る。みんな裸足だ。転がった目の先でバッタが跳ね、頭の上をトンボが飛んだ。
……子どもの楽園をイメージするヒトコマだが、園庭を一面の芝生にすることは幼稚園の園長なら誰もが願ってきたことだろう。しかしお金がかかる。最初の植え付け工事に大きなお金がかかる上、水やり、芝刈りの手間がかかり、はげたり枯れた部分の補修など維持経費が馬鹿にならない。
ようやく出来上がった芝生の園庭で運動会をしたら、いっぺんにみんなはげてしまって、それまでのお金が無駄になったという失敗談はよく聞く。除草剤や殺虫剤などの薬品を使うことにも抵抗が強い。
だから園児が芝生に入れるのはたまのランチタイムだけで、それ以外は厳重に立ち入りが制限され、もっぱら鑑賞用になっている例もある。それでは意味がない。そんなわけで芝生化に二の足を踏んでいた幼稚園が多かった。
ところが最近、園庭を全面芝生にする幼稚園が続々と増えてきた。安くて成長が早く、丈夫で失敗がほとんどないという夢のような芝生が普及してきたからだ。バミューダグラス(ティフトン芝)による新方式である。
★ニール・スミス氏の鳥取方式が夢を実現
これまで日本で一般的だった高麗芝、西洋芝は見た目はとても美しいが、根付くまでに時間がかかり、繰り返しの踏みつけに弱いという難点を持っていた。園児が一日中駆け回り、時には駐車場としても利用される幼稚園の園庭では、それでは具合が悪い。そして50センチ四方(または50センチ幅のロール状)の切り芝を貼りつけていく工法は費用が高かった。
これに対して新方式は、ポットで育てた苗を1メートル間隔で植え込んでいく簡素なもの。薬剤も肥料も不要だ。植えた直後は「え、これが本当に芝生になるの?」と首をひねるほど頼りない姿だが、これがまか不思議、苗は力強く広がって互いに手をつなぎあい根を張って、二ヶ月後には立派な芝生ができあがる。まさに「緑の魔法のジュウタン」である。
この新方式を「鳥取方式」と呼んでいる。先鞭を付けたのはニュージーランド人のニール・スミスさん。芝生や園芸の専門家ではなかったが、日本に住むようになってから、日本の学校の校庭がどこも地面むき出しでいることに心を痛め、自分の国の学校のようにみんな芝生にしたいと考えたという。
そこで妻の故郷である鳥取県で県有地を借り、地域の人々の協力も得て苗を育て、全国に提供して普及に取り組んできた。今では鳥取県の特産事業に位置づけられている。
★日本サッカー協会も普及の推進役に
芝生は地面の温度上昇を抑え、ヒートアイランド現象を防ぐ効果を持っている。砂埃が立たないので近隣に迷惑をかけることもない。転んでケガをすることが減るので子ども達は安心して走り回ることができる。温室効果ガスを吸収し、虫や小動物が暮らす自然が蘇る。
手間はかかるが、水やりも芝刈りも運動のひとつと考えれば良いことずくめである。そこで学校の芝生化をもっと積極的に広げようと補助金を出す都道府県が増えてきた。
もうひとつ、(財)日本サッカー協会(JFA=犬飼基昭会長)もその推進にひと役買っている。50カ所の校庭・園庭をカバーできる鳥取方式の苗(約30万株)を無償提供しているほか、芝の専門家養成やパンフレットの制作配布を行っている。
無償提供を受けた幼稚園や小中学校にはJFA名誉会長・川淵三郎キャプテンがやってきて、苗植えの指導をしたり、あるいは完成した芝生の庭で子ども達とサッカーを楽しむなどのイベントを行って幼稚園が地域の芝生化の拠点となるよう機運盛り上げに貢献している。
ニール・スミス氏と同様、川淵キャプテンも昔から学校の芝生化に意欲を燃やしており、JFAグリーンプロジェクトは“キャプテンズミッション”とも呼ばれている。
★みんなビックリ、2ヶ月で芝生が完成
JFAから無償提供を受けられればラッキーだが、昔に比べると10分の1くらいの予算で済むし県の補助金も受けられるので、キャプテンの恩恵を待たずに芝生化を進める幼稚園も多い。それが急速に芝生を広げている要因だ。
鳥取方式による芝生化の事例を見ると、6月の父の日参観日で父と子が一緒に苗植えを行う。人手の多いことは大したことで30分もあれば園庭全部の作業が終わる。小さな苗がポツンポツンと植えられた状態なのに、翌日から子ども達はいつもと同じように園庭で遊ぶ。誰もが「あんなに踏んづけて大丈夫かな」とハラハラ心配するが芝生はたくましく育ち、夏休みに入る頃には緑に覆われる。そして夏休みが終わって戻ってきた子ども達は目をみはり歓声をあげる。緑濃いふかふかのジュータンがみごとに出来上がっているからだ。
秋が深まると少しずつ枯れてくるが、オーバーシーディングという方法で冬芝の種を上から蒔くと、再び青青とした芝生が蘇り、1年中緑の園庭を維持することができる。
寒冷地や雪国でも同じようにいくとは限らないだろうが、遠からずほとんどの幼稚園の園庭が芝生になるのは間違いないだろう。
また最近は市区の条例によって、園舎建て替えの際には屋上や壁面の緑化が義務づけられることが多く、屋上を芝生ガーデンにする幼稚園も増えてきた。今や「子育ての拠点」は「地域緑化の拠点」としてのミッションにも取り組んでいるのである。
※ウェブマガジン『月刊・私立幼稚園』の「実況中継」と「幼稚園レポート」には、2009年夏、この鳥取方式で芝生化を実現した埼玉県・春日部成就院幼稚園、富山県・白藤幼稚園の様子が詳しく載っています。白藤幼稚園はJFAから苗提供を受け、川淵キャプテンを迎えての「芝感謝祭」を行いました。
幼稚園情報センター代表・片岡 進