新しい絵本のスタイルになるか

絵本「ぼくんちに、マツイヒデキ!?」

子どもの中のリアリティとファンタジー

2010年1月17日

★松井選手が外野手にこだわる理由
幼稚園を旅する股旅編集長なので絵本のように幼稚園を語ることはできるが、子ども達が読む絵本に詳しいわけではない。しかしこの絵本が今までにない新しいタイプであることはわかる。
何しろ実在の人物が主役である。現在活躍中の人物が、子ども達の中では伝説の人物になっている。それは昔からどんな子どもも抱いている夢想だが、それを伝記風とか物語風でなく奇想天外なファンタジーに仕上げてくれた。ジャイアンツも米大リーグも好きではないが、子ども達の心の中にいるマツイヒデキのファンになってしまった。

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ザアザア降りの雨の日、「みんなと野球ができなくてつまんないな」と思ってテレビをつけると大リーグ中継をやっていた。
カキーン。外野に飛んだライナーがまっすぐ僕の方に飛んできた。それを捕ろうとマツイヒデキがもの凄い勢いで走ってきた。勢い余ってマツイ選手はテレビから飛び出し、僕の家の中でボールをキャッチした。テレビの中では「ナイスキャッチ」の拍手が湧いている。
大きなマツイ選手が飛び込んだおかげで家の中はメチャクチャ。「ごめん、ごめん」と言いながらマツイ選手は部屋を片付けてくれた。それから一緒にお風呂に入って、大きなオニギリも作ってくれた。
でもマツイ選手は片付けもお風呂もオニギリもあんまり上手じゃなくて「ごめん、ごめん」と謝ってばかり。
だけど僕が野球ができなくて寂しがっているのを知ると、バットのひと振りで雨を吹き飛ばし、口から吹き出すゴジラの炎でグランドを乾かしてくれた。
そして僕が投げた剛速球をマツイ選手は空の彼方までかっ飛ばし、猛スピードで地平線の彼方へ走っていった。

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これがストーリーのあらましだ。2009年5月に刊行された本なので着ているユニフォームはヤンキース。でもきっと子ども達は現実の松井秀喜選手をちゃんとフォローして、絵本を読みながらエンゼルスの服を着たマツイ選手を思い描いてくれるだろう。
僕の家に飛び込んでくる衝撃の出だしは外野手としてのファインプレーである。松井選手が守備にこだわる理由はそこにある。この絵本の刊行が松井選手をエンゼルスに移籍させたとも言える。絵本の世界で今度はどんなファンタジーを展開してくれるだろうか。できればイチローも連れて来てほしいものだ。続編を待ちたい。
こんな具合に、現実の人物が伝記絵本ではなくファンタジック絵本になるケースは今後増えるだろうか。しかし活躍している人はたくさんいても、現実感と親愛感を備えた伝説的人物となるとなかなか見あたらない。もしかしたらマツイヒデキが最初で最後のキャラクターなのかも知れない。
ところでこの絵本、浅野真澄さんのストーリーもさることながら絵の迫力がまた凄い。子ども達の感性を強烈に刺激することは間違いない。その絵本画家・飯野和好さんは木枯らし紋次郎の股旅姿で全国を渡り歩いているという。これまたしびれる話だ。私も真似してみたいという気持ちがふつふつとわき上がってきた。
『月刊・私立幼稚園』編集長・片岡 進