私立幼稚園界に残るひとつの不思議

「しりつ幼稚園」と「わたくしりつ幼稚園」

公教育の明確化にも言葉の一本化を

2010年9月24日

★「官尊民卑」時代のイメージ
「私立幼稚園」。あなたはこれを何と読むだろうか。
「何をバカなことを言っているのか?」と思うかも知れないが、実は読み方は二通りある。多くの人は「しりつ幼稚園」と呼ぶが、一部の人は「わたくしりつ幼稚園」と呼ぶ。“一部の人"とは60代以上の年配者、または近畿以西の西日本の一部という印象が強い。
常にその言い方をする人の中には私幼組織のトップリーダーもいて、大勢の人が集まり、知事や市長の来賓が並ぶ教育研究大会などでも、「第○回わたくしりつ幼稚園△△大会を……」と司会者も主催者も県議会議長も言っている光景に時々出会う。
なぜそんな言い方があるかのといえば、それは「市立幼稚園」と区別するためである。
戦後、1950〜60年代にかけて普及が進んだ幼稚園教育は一貫して私立が先導してきたが、当時はまだ戦前の「官尊民卑」の意識が色濃く残っていた。そのため「私立幼稚園」を「しりつ幼稚園」と言うと、「何?それは“市立"か“わたくしりつ" かどっちなんだ。気安く“しりつ"なんて言うんじゃない」と問い返されることが多く、「恐れ入りました。はい“わたくしりつ"でございます」と私立幼稚園関係者は腰を低くしてきた。
その後、幼稚園教育の主流である私立幼稚園は徐々に存在感を増し、70年代には「しりつ」と言えば「私立」が当たり前の世の中になった。逆に区別するために市立は「いちりつ」と呼ばれ、区町村立を含めた総称で「公立」と呼ばれるのが一般的になった。
そんな中、年配者が今も「わたくしりつ」と言うのは昔のイメージを引きずっているからだろう。また西日本の一部に多いのは、あるいは比較的最近まで私立幼稚園の存在感定着が遅れていたのかも知れない。しかし時代が変わったことを思い起こし、少なくとも私立幼稚園関係者は言葉の使い方を改めてもらいたいものである。

★私立幼稚園はパブリックスクール
第一、「私立幼稚園の教育は“公教育"です。私塾のような“わたくし"的教育をしているのではありません。日本の私立学校はプライベイトスクールでなくパブリックスクールです」ということは私立幼稚園経営者の誰もが強く意識し、教職員と保護者に繰り返し伝えていることである。折しも教育基本法、学校教育法の改正によって公教育における私学の位置づけはより明確になった。
もちろん私学だから、経営の独自性を保ち、教育内容の特色づけをするのは当然だが、それは法律で定められた公教育の枠内で行われていることであり、地域や保護者の厳しい評価に晒されながら行われていることである。だからこそ、無用な誤解を生む言葉づかいは止めてもらいたいと願う。
たしかに「私」の読み方は「し」「わたし」「わたくし」の三通りあるので、「その読み方は間違いです」とは言えないかも知れない。ワープロ変換でも「わたくしりつ」は「私立」と出る。「わたしりつ」は変換できないので、おそらく慣用語として変換設定されているのだろう。
そこで地元自治会長の強みを生かして、複数の中学校の複数の国語教師に「“私立幼稚園"の読みが試験問題に出て、“わたくしりつようちえん"と書いたら正解ですか?」と尋ねてみた。全員が「不正解になる可能性が高いので、そのようには書かない方がいい」との返事だった。子ども達や若い人たちに、間違いの可能性が高い言葉を伝えないためにも、「私立幼稚園」は「しりつ幼稚園」で一本化されることを切に願うものである。
幼稚園情報センター代表・片岡 進