全埼玉私立幼稚園連合会の設置者園長研修会

落語家から学ぶ「気持ちを伝える話し方」

埼玉出身の若手真打ち招き古典人情噺を聞く

2012年7月1日

★いつもユニークな講師の顔ぶれ
2012年4月27日(金)、(社)全埼玉私立幼稚園連合会(平原隆秀会長=春日部成就院幼稚園)は定時総会と併せての設置者・園長研修会を栃木県鬼怒川温泉のホテル三日月で開催した。オペラ歌手、講釈師、歌舞伎役者、声帯模写芸人……などユニークな講師を招くことで知られる埼玉県の研修会だが、この日は若手落語家・三遊亭楽生さんが講師を務めた。
といっても楽生師匠が何か幼児教育に関わる話をしたわけではない。1時間半の持ち時間を二つに分け、前半は自身の生い立ちや落語界の裏話を枕にした後、父と子のほのぼのとしたやりとりを描く『初天神』を語った。何もねだらない約束で父親と一緒に縁日にやってきた坊やが、父親を丸め込んで団子を買ってもらう話だ。
休憩の後、着物を替えて再登場した後半は、聴衆をヨイショする枕に続いて古典人情噺の『徂徠豆腐』を演じた。江戸時代の儒学者・荻生徂徠は、不遇の時代、催促なしのツケ払いを許してくれた振り売りの豆腐とオカラで命をつないだ。後にその豆腐屋が家事で焼けたとき、荻生徂徠は店の再建に尽力して恩返しをしたという、おなじみの一席である。
どちらも、ふだん寄席で語っている演目で、それを少し長めに二本立てで演じたのである。研修のネライは話の中身ではない。その話し方にあった。
私立幼稚園の理事長や園長にとって避けて通れない役割に、人前での語りがある。幼児教育への理解を幅広く浸透させていくには、園児、先生、保護者、卒園児、地域の人々に繰り返し話していくことが必要だからだ。そこで、本題を印象づける上手な話し方、話しの力を、落語家から学ぼうというのが一番のネライである。
対話や講話を通じて自分の気持ちを伝えるために大事なことは、①わかりやすい話し方、②明るく楽しい口調、③興味を引く中身、④整理された筋道、⑤誠実さ謙虚さを感じさせる表情、などが上げられる。もちろん園長先生は誰もがそれを心がけているが、うまく噛み合わないと、聴く人に不快感、不信感を招く逆効果にもなりかねない。
その点、落語家は聴いてくれた方に満足感を与え、話の中身も覚えてもらい、「またあの人の噺を聞いてみたい」という気持ちにさせる。見習いたいことである。かといって、たくさんの場数を踏み、自分なりの話法を身につけた園長先生に、今さら話し方の基本を説くことはおこがましい。それならば、落語家の話を生で聴いて、それぞれに何か気づいてもらおう、というのが今回の研修の趣旨だったようだ。
しかし、こう書いても文字だけでは話し方のツボは伝わらない。そこで、当日の三遊亭楽生師匠の音声を添付したので、それを聴いてみてほしい。そして、「初天神」「徂徠豆腐」の内容も覚えて、話のタネにしてもらえれば幸いである。

※三遊亭楽生「講演会」前半(音声YouTube)
※三遊亭楽生「講演会」後半(音声YouTube)

文=幼稚園情報センター・片岡進/取材=同遊軍スタッフ・藤田直樹