日仏保の第80回夏期仏教保育研修会

清水博雅先生が語る「若い先生への仏教の話」

こだわりを捨て、物事を白紙にする「般若心経」

2012年9月12日
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清水博雅(しみずはくが)

清水博雅(しみずはくが)
東京都日野市・日野わかくさ幼稚園理事長&園長。東京都私立学校審議会委員。真言宗智山派・真照寺住職。元・東京都私立幼稚園連合会会長(8期16年)、元・全日本私立幼稚園連合会副会長(4期8年)。元・中学校教師。満州国立大学在学中に学徒動員で特攻隊に徴用され九死に一生を得た体験を持つ。86歳。

★仏教の心(根本)に接する機会
 公益社団法人・日本仏教保育協会(上村映雄理事長=東京都・ほぜんじ幼稚園)と東京仏教保育協会(安藤文隆委員長=中野区・金の峯幼稚園)が主催する「第80回夏期仏教保育研修会」が2012年7月23・24日、芝・増上寺の三縁ホールで行われた。縁あって仏教系の幼稚園、保育園の職員になった人たち、特に1年目、2年目の若い教師、保育士に仏教保育の心に触れてもらおうと毎年開かれている研修会だが、80年余りも続いている大会といえば夏の甲子園野球くらいしか思い浮かばない。それほど長い歴史を刻んできた大会である。
 その初日、東京都・日野わかくさ幼稚園の清水博雅園長が「仏教の話」と題する講演を行った。東京都私立幼稚園連合会の会長を16年、全日本私立幼稚園連合会の副会長を8年務めた清水先生は私立幼稚園の振興に大きな功績を残してきた。そして真言宗智山派・真照寺の住職として仏教界での重鎮でもある。86歳になった清水先生は、以前と変わらない元気な姿と声で楽しくわかりやすい講演を行った。
 といっても聴衆は大半が若い人たちである。清水先生は仏教保育の基本とその意味をわかりやすく話した。しかし仏教系の幼稚園にたくさん出入りし、門前の小僧のつもりでいた記者にとっても初めて聞く話が多かった。そこでここでは記者の印象に残った話をいくつか紹介したい。

★朝から晩まで「ごめんなさい」
 仏教系にかぎらず、幼稚園の多くは「素直に『ごめんなさい』が言える子に育てる」を大事な柱にしている。それはどうしてか。これは「三毒」の話に由来する。
 人はどんなに学んでも修行を積んでも克服できない三つの煩悩をもっている。それを仏教では「貧瞋痴(とんじんち)」と呼んでいる。貧(とん)は欲、瞋(じん)は怒り、痴(ち)は愚かさである。このために人は日々間違いを行い、迷惑をかけている。だからその行動に気づいた瞬間に「ごめんなさい」と言えることが肝心なのである。
 「園長先生は『ごめんなさい』のことばかり言っている」と園児に言われると、清水先生は「朝から晩まで『ごめんなさい』と言って暮らせば、人間は少しずつ立派な人になっていけるんだよ」と答えているとのことである。
 次は「六波羅蜜」。悟りを得る修行の六つの要素が、仏壇のお供えに現れているという。水をあげるのは「布施」(他人への施し)、焼香は「戒律」(守るべき規律)、お花は「忍辱(にんにく)」(寒さを耐え忍んで花を咲かせる)、線香は「精進」(常に一定した励み)、果物・菓子は「禅定」(心のゆとりと安定)、灯明は「智恵」(暗いところを明るくする)というわけである。これを知らなければ、行事のときの献灯献花の意味もよくわからないことになってしまう。

★四十九日で来世が決まる
 仏教幼稚園の教師なら年に何度か唱えることのある「般若心経」。その一番大事なところは「空」である。これはすべての物事を白紙として考え、そこに一切のこだわりを持たないということだ。こだわりとは「きれい・汚い」「長い・短い」「大きい・小さい」というようなことで、清水先生は良寛和尚の鍋を例に引いた。
 山の庵に住む良寛さんのもとに里から村人が訪ねてくると、鍋に水を張って足をすすぐよう勧める。そのあとは同じ鍋で煮物を作ってご馳走する。村人は「あれ?いま足を洗った鍋だ」と思うかも知れないが、きれいに洗ってあるので煮物に影響はない。そして翌朝はその鍋で顔を洗う。そんな良寛さんの鍋こそ「空」であるという。
 もうひとつ記者の目からウロコが落ちたのは「四有(しゆう)の話」だった。輪廻転生の1サイクルを四つに区分したもので、「生有」は受胎から誕生、「本有」は誕生から死(現在の生存)、「死有」は死の瞬間(臨終)、そして「中有」が死んでから次の生を受けるまでの間の49日間である。この49日の間、7日ごとに「次はどんな生を与えようか」と審査が行われ、最後の49日目に決定が下されるという。それゆえ7日ごとに遺族が集まって「死者が少しでも良い生を受けられるように」と祈る。これが「初七日」から「四十九日法要」までの意味である。
 
★「長生きのコツ」五カ条
 「仏教は奥が深い。若い先生が多くのことを知るのは難しいかも知れない。でも今日の話を聞いただけでも、皆さんの方が一般の人たちより仏教の知識は豊富なんです。日々の実践でさらに深まっていくでしょう。真言宗には「纔発心転法輪(さいはっしんてんほうりん)菩薩」という仏様がいます。ほんの少しのことから真理を読み説く菩薩です。皆さんもその気持ちを持ち、自信をもって子ども達、保護者の方々に仏教を語ってください」と清水先生は結んだが、最後のオマケとして「長生きのコツ」を教えると言った。それまで少々難しい顔で聞いていた先生方の目がまん丸に開かれた。
 コツは五つだった。
(1)生涯勉強すること。(勉強とはいろいろなものに好奇心を持ち、それを調べたり体験する探求心のこと)
(2)人のためになる仕事を続けること。
(3)身ぎれいにしてお洒落に気を使うこと。
(4)少しのお金を持ち、それを上手に使うこと。
(5)いつまでも異性に関心を持ち続けること。
 さらにもうひとつ、清水先生が幼稚園で子ども達に披露している手品を見せてくれた。手さばきは相変わらず見事で、盛大な拍手を受けて清水先生の講演は幕を閉じた。(「長生きのコツ」と「マジック」は動画を添付したのでご覧いただきたい)

清水博雅先生の講演から「長生きのコツ」(YouTube)

清水博雅先生の講演から「マジックショー」(YouTube)

幼稚園情報センター・片岡 進