(株)ジャクパの創立40周年記念講演会

櫻井よしこ氏が語る「家庭教育、幼稚園教育の期待」

2歳までは親の肌身で育て、郷土の偉人を語ろう

2012年10月1日
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櫻井よしこ(さくらいよしこ)

櫻井よしこ(さくらいよしこ)
1945年10月生、ベトナム出身。ジャーナリスト、国家基本問題研究所理事長、「21世紀の日本と憲法」有識者懇談会(民間憲法臨調)代表。ベトナム・ハノイの野戦病院で日本人両親の間に誕生。帰国後は大分県中津市、新潟県長岡市に住む。新潟県立長岡高校卒業後、慶大文学部を中退しハワイ大学歴史学部を卒業。1980年から16年間「日本テレビ・きょうの出来事」のメインキャスターを務め、女性ニュースキャスターの草分けとなった。著書は「気高く、強く、美しくあれー日本の復活は憲法改正からはじまる」(小学館)ほか多数。

逝きし世の面影

『逝きし世の面影』
渡辺京二著/平凡社ライブラリー/文庫判・本文600頁/定価1,900円。

★日本語をより深く学ぶ
 政治の混迷が続き、官僚たちの独善的な政策が強行されている。日本周辺の国際情勢はかつてなく緊迫し、戦争が始まりかねない様相にある。今や日本という国は羅針盤の故障した老朽船のようでもある。その中にあって、もっとも注目されるオピニオンリーダーの1人が櫻井よしこ氏だ。毅然としてぶれない言説を見聞きするにつけ、先祖伝来の日本人魂が揺さぶられ、背筋が伸びる思いがする。
 その櫻井よしこ氏が、(株)ジャクパの創立40周年記念講演会で私立幼稚園経営者を対象に、家庭教育の大切さ、幼児教育の重要性、私立幼稚園への期待を“櫻井よしこ流の視点”で説いた。幼稚園への体育講師派遣事業の草分けであるジャクパ(五十嵐勝雄社長/本社=東京都小平市)は、幼稚園だけでなく保育園も対象にしている。だから会場には保育所経営者の姿も少なくなかった。にもかかわらず「国や東京都が0歳から保育所で子どもを預かる制度を広げているのは、母親にとっても子どもにとっても悲しいこと。子どもの脳の健全な発達を阻害するだけです」と指摘した。
 またジャクパは英語教師の派遣事業も行っているが、にもかかわらず「外国語を習うより、まずは日本語をしっかり学び、日本語で深く考える日本人にならなくては世界で通用しません」と幼児期の英語教育を否定した。ベトナムで生まれ、ハワイ大学を卒業し、英語でのスピーチ、執筆を苦もなくこなす櫻井氏だけに実感がこもる。中国に行って、中国の問題点を堂々と主張できる櫻井氏の面目躍如たる講演だった。
 全国から約300人が集まった東京信濃町・明治記念館の大広間は水を打ったように静まりかえった。櫻井氏はテレビのニュースキャスター当時から、声は小さく口調は穏やかである。語気を強めたり、手を広げたりすることはない。しかし言葉はどれもずっしり重く、身体の中に突き刺さってきた。

★親の背中を見て大人になる
 『教育が拓く未来』(PHP研究所・2004年刊)という本を書いたとき、櫻井氏は2年間にわたり同じクラスを定期的に訪ねて児童、保護者、教師を観察する定点観測を複数の小学校で続けた。ここで見た母親の姿は「信じがたいものばかりだった」と事例を紹介し、子どもを健やかに育てる上で壁になっているのは母親だと指摘する。しかし母親の意識改革には大変な労力が必要だ。そこで小学校や教育委員会は、母親教育を後回しにして、まずは自分たちのできることで子どもを変えることに取り組む。それはひとつの前向きな教育姿勢と見ることができ、それをまとめたのが同書である。
 しかし私立幼稚園は母親を後回しにするわけにはいかない。健全な家庭教育が幼児教育の前提になっているからだ。今、子どもと母親を同時に教育できる場は幼稚園しかない。国家にとっての最後の砦である。その砦をみずからぶち壊し、日本国、日本民族を崩壊させようとしているのが民主党政権であり、内閣府である。と、ここまでは櫻井氏も言わなかったが、「自分たちの仕事も大事、でもその前に家庭教育が一番大事ということを、日々子ども達に接している皆さんは誰よりも知っているはず」という言葉に、幼稚園に対する櫻井氏の期待がにじんでいた。
 櫻井氏はもう1冊、「すべての家庭に常備してほしい」という本を紹介した。渡辺京二氏(思想家・歴史家・評論家)が書いた『逝きし世の面影』(平凡社ライブラリー・1998年刊)である。これは幕末から明治にかけて、日本にやってきた数多くの外国人の、日本人に対する印象を、文献を丹念に集めてまとめた本である。
 3歳になるまで、おんぶに抱っこで肌身離さず赤ちゃんを育てる子煩悩な日本人。アメリカやヨーロッパではわがまま放題の子どもに育つ育児法だが、日本の子どもは4〜5歳になると立派な紳士・淑女に変身する。それはなぜかと考察した結果、片時も離れずに親の背中、大人の姿を見てきたからだと多くの外国人が合点した。当時の日本人は皆、すぐれた倫理観を持ち、礼節をわきまえた人々だったので、子ども達の周りにはお手本や教師がたくさんいたのである。

★山本五十六と杉本鉞子
 また、中学高校時代を新潟県長岡市で過ごした櫻井氏は、郷土の偉人として、山本五十六海軍大将(連合艦隊指令長官)と、旧長岡藩家老の娘・杉本鉞子氏(英文で『武士の娘』を書き、日本人初の世界ベストセラー作家になった人)の二人をあげ、まるで実際に会ってきたかのように、さまざまな逸話を語った。祖母、母、そして近所の人たちから繰り返し聞いたことだった。櫻井氏の心に郷土愛が根付き、愛国の情が育まれた源泉だと感じた。
 我が子に無上の愛を注ぎ、黙って親の背中を見せ続け、郷土の偉人を語り聞かせる。これこそが家庭教育、地域教育の本質である。何も明治や幕末にまで戻る必要はない。ほんの50年くらい前まで、どこの家庭、どこの町内でも行われていたことである。60代、70代の人たち、つまり幼稚園児の祖父、祖母なら思い出せるはずである。「質素に暮らし、謙虚に礼儀正しく、高潔に生きる」これを日本の大人たちが励行すること。中でも身に覚えがある祖父母世代が率先して行うことでしか日本国家の建て直しはできない。と、櫻井よしこ氏の講演を聞いて我が身を引き締めたものである。

※櫻井よしこ氏の詳しい講演内容は『月刊・私立幼稚園』“研修会&都道府県レポート”に掲載してあります。ログインして是非ご覧ください。これをコピーしたり園だよりに転載して、貴園の保護者に伝えてくだされば幸甚です。
幼稚園情報センター・片岡 進