ギルフォードSI教育協会の演奏&講演会

アメリカ人琵琶法師が弾き語る世界平和の願い

「自分は違っている」の自覚から友好が始まる

2013年1月14日
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ジョージ・W・ギッシュ

ジョージ・W・ギッシュ
青山学院大学名誉教授、江戸川区総合人生大学国際コミュニティ学科長。
1936年12月生まれ、米国カンザス州出身。カンザス州立大卒、ミシガン大学大学院博士課程修了。4歳からピアノ、8歳からバイオリンを始めるなど早くから音楽を専門的に学ぶ。日本の雅楽に関心を持ち、琵琶の由来を中心に日本および世界の文化史を研究してきた。1958年の初来日以来、日本での生活は50年に及ぶ。

薩摩琵琶を演奏するギッシュ氏。

薩摩琵琶を演奏するギッシュ氏。薩摩琵琶で語った島津日新斎作「迷悟もどき」には、敵を愛し、敵から学ぶことで自分が磨かれるの意が含まれている。

★エジプトで誕生した弦楽器の原点
 2012年12月2日(日)、東京都江東区・東大島文化センターで行われたジョージ・W・ギッシュ氏(青山学院大名誉教授)の琵琶演奏会に出かけた。米カンザス州出身のギッシュ氏は日本に住んで50年、琵琶の由来を中心に日本文化史を研究してきた学者である。
 主催はNPO法人ギルフォードSI教育協会(白濱洋征代表/本部=東京都葛飾区)。幼稚園児の才能育成について、教育メソッドや教材を提供している団体である。同団体の夏の教員研修会に、ギッシュ氏を特別講師に招いたところ、琵琶の音色と、その合間に語る話に若い教師が深く感動したという。それなら一般の人たちにも聴いてもらおうと演奏会が企画され、「よかったら来ませんか」と白濱代表から呼びかけがあった。
 ラフカディオ・ハーンの物語「耳なし芳一」などで日本の琵琶についての知識はあるが、実際に演奏する姿に接したことはなかった。しかもそれがアメリカ人が演奏すると聞き、出かけた。同じ思いの人が多かったのか、会場は立ち見が取り巻くほどの超満員になった。
 ギッシュ氏らの研究によると、琵琶は約6000年前にエジプトで誕生して世界中に広がったもので、すべての弦楽器の原点だという。中央アジアでは仏教音楽と結びついて発展したが、美しい旋律を奏でる中国琵琶と違って、日本の琵琶は雅楽合奏の中にあって、笛の旋律に間合いを知らせるリズム楽器として受け継がれてきた。四本の弦で、時たまボロロンと低い音を鳴らすだけの地味な存在である。それゆえ盲目の琵琶法師の伴となり、語りにリズムとアクセントをつけてきたようだ。
 平安時代に日本に入ってきた琵琶は、誰でも演奏できるように小型軽量化されて平家琵琶となり、それが琵琶法師とともに各地に伝わった。やがて薩摩に上陸した宣教師ザビエルが、ビオラなどの西洋楽器を携えていたことから、それと融合して、武士が使う勇壮な薩摩琵琶、女性が柔らかに奏でる筑前琵琶に発展して現在に至ったとのことである。

★違う自分を意識すれば生き方が変わる
 そんな、地球を巡り人々に愛された琵琶を抱えながら、ギッシュ氏は演奏の合間、つぎのように世界平和についての思いを語った。
 「人間は誰しも、考えるまでもない自明の理を持っている。常識(固定概念)であり価値観(偏見)である。それと合わない人を“あの人は違う、おかしい”と排除し、相手が弱い立場ならいじめ、強い立場なら敬遠する。一方的に“あの人は違う、自分とは一番違う”と思ってしまうが、その相手から見れば自分が一番違っている。その意識を持つことが生き方を変え、“自分が違っている”という自覚が平和への出発になる」
 「人間として生きる価値観は、隣人と共に学び、共に喜ぶことだ。それができなければ意味がない。どこかに基準をおいたり、自分と相手を比較したのでは前に進めない。違う人と素直につき合ってみれば、気づかなかった自分の良さが出てくるし、相手の良さが見えてくる。自分の住んでいる場所が世界の中心に違いないが、それはみんな同じこと。それをよく自覚して、隣の人、周囲の人々と平和を築いてほしい」
 ギッシュ氏は具体的なことを言わなかったが、こうした話を聞いて多くの日本人が思うのは、最近とくに冷え切ってきた中国、韓国、北朝鮮、ロシアなど近隣諸国との関係である。たしかに彼らの立場から見れば、「日本が一番違う、おかしい」と見えるわけで、それを自覚して接近すれば友好の手がかりが見つかるかも知れない。ギッシュ氏はそのことを伝えたかったような気がする。
 「私は研究者であって演奏家ではありませんから」と言ってギッシュ氏が弾き、語った琵琶の音色は、何の飾りもない素朴なものだった。この素朴さもまた幼稚園教師の胸を打ったのだろう。「小原御幸」など平家物語の一節は、最後の盲目琵琶奏者から口伝えで習ったそうだが、これを歌える人はもはや彼しかいないという。日本文化の継承をどうしたらいいかも考えさせられた演奏会だった。
 琵琶のことなら何でも知っているギッシュ氏。琵琶湖の大昔の名前は不明だが、楽器の琵琶に似ていることから今の名になったのは間違いないとのこと。形が似ているのは果物の枇杷も同じだが、「これはどっちが先だか、まだわかっていません」とのことだった。

ジョージ・W・ギッシュさんのお話の一部(You Tube)
平家琵琶演奏の一部(You Tube)
薩摩琵琶演奏の一部(You Tube)
幼稚園情報センター・片岡進