祖父母が元気なら子も孫も元気になる

　「子育て支援」という言葉が政策用語になって久しい。全日本私立幼稚園連合会が東京で「子育て国際会議」を開いたのが1988年だから、全国キャンペーンとして広がりを見せてからすでに四半世紀になる。この間、さまざまな団体・企業が支援運動を展開してきたが、もっとも熱心に、そして継続的に行ってきた代表格として(社)全埼玉私立幼稚園連合会（略称＝全埼私幼連／平原隆秀会長＝春日部成就院幼稚園）がある。
　1989年から毎年、県内20数カ所で「子育てフォーラム」「家庭教育研修会」を開き、「子育てジャーナル」「子育て読本」を編集発行し、「子育て電話相談室」を常設し、最近は「親学アドバイザー養成講座」にも力を入れている。その全埼私幼連が2012年度から「祖父母のための子育て支援シニアフォーラム」をスタートさせた。
　政党が旗を振り、役所がいろいろな支援サービスを始めても、親たちから聞こえてくるのは「必要なときに祖父母の手助けを得られるのが何よりありがたい」「祖父母が近くにいるので心強い」という声だ。逆に祖父母の存在が遠い親ほど子育ての不安が深まり、悩みを抱えていくようである。
　そこで全埼私幼連は、子育て支援（＝孫育て）に取り組んでいる祖父母に集まってもらう機会をつくることにした。同じ仲間がたくさんいることを知り、自信をもって、もっと元気に子育て支援をしてもらおうというのが趣旨だ。

　2012年11月28日(水)、9時45分から始まった越谷市コミュニティセンターでの東南地区シニアフォーラムの様子を覗いてみた。講師は三人。落語家の三遊亭楽生さん、声楽家の原田泉さん、それに平原会長である。
　まず登場は地元出身の楽生さん。座布団に座って20秒後には会場を爆笑の渦に巻き込んだ。落語の技であり力である。「1日に1回大笑いすれば寿命が1日延びるんです。だから毎日笑っていれば一生死なないんです」と言いながら枕の10分間でさんざん笑わせた楽生さんだが、本題の古典落語「ねずみ」はたっぷり35分の人情噺。笑わせるどころか、最後は祖父母らの目頭を熱くした。
　「久しぶりに生の落語を聞いた。思いっきり笑って、じんわり泣いた。やっぱり落語はいいね」と江戸っ子風のお爺ちゃんが唸った。
　次に登場したのが平原会長。4人の子ども、12人の孫を持ち、お寺の住職でもある平原先生は、その豊富な体験から子育てのツボ、不変の人生訓を子や孫に伝えてほしいと、ユーモア口調と身振りで語った。
　たとえば「赤ちゃんの素直な表情・心を見ていると心が洗われる。自分自身の生き方、考え方を見直す力になってくれる」「子育て、孫育ての上手な人はニコニコしながら子どもを見つめ、しっかり見守っている。そして危ないときにサッと手を伸ばす」「お金や物では決して幸福にはならない。幸福になる人は人のつながりをたくさん持っている」「赤ちゃんを喜ばせる“いないいないバー”こそ人と人をつなぐ原点であり教育の原点です」などである。
　しかしこんな話も長く聞いていると少々お説教じみてくるので、合間合間に原田さんのカンツォーネや童謡・唱歌が入り込んできて、会場はいつしかコンサートムードになった。心憎い演出・構成で、これまたベテランの聴衆を唸らせた。最後は参加者全員で「故郷」を歌い、2時間のフォーラムを閉じた。
　全埼私幼連の子育て支援事業も、最初は教養講座的な雰囲気が強かったが、徐々に歌、笑い、芸能、そしてプラスアルファ教養という形に変わってきた。たくさんの経験を重ねて、それが一番子育てのエネルギーになることがわかったからだ。「笑い声、歌声、話し声が聞こえる家庭に健康と幸福が宿る」へのアプローチである。新たなシニアフォーラムでもその経験と蓄積が存分に生かされ、会場を後にする祖父母の表情は明るく、足取りも軽かった。
　まさに「祖父母が元気になれば、子も孫も元気になり、日本中が元気になる」を実感したフォーラムだった。とりあえず2012年度は県内4カ所の開催から始まったが、この輪が、さらに県内外に広がっていくことを期待したい。

※三遊亭楽生さんのお話の一部（You Tube）
※平原隆秀会長の講話の一部（You Tube）
※原田泉さんの歌の一部（You Tube）