川崎で起きた死亡事故から考えること

三人乗り自転車事故の悲劇を繰り返さないために

ヘルメットとシートベルトの着用徹底を

2013年3月16日

★歩道走行でバランス崩した
2013年2月4日(月)の寒い朝、川崎市幸区のJR矢向駅近くで悲しい事故があった。会社員の母親(36)が、自転車の前と後ろに1歳と5歳の娘を乗せて歩道を走っていたとき、バランスを崩して自転車を倒した。はずみで後ろの5歳児が車道に転がり出て、通りかかったトラックの後輪にひかれて死亡した事故である。母親は出勤前に二人を保育園に送り届ける途中だった。
歩道の幅は1.3メートル。片側一車線の車道より10センチほど高いが、ガレージや商店の前では高さがなくなる凹凸の多い旧道タイプの歩道だ。歩道には電柱も立っていて、その箇所では幅が1メートル以下になる。車道との間にガードフェンスはなく、歩道に乗り上げて駐車する車もある。その狭い歩道で反対方向から自転車が来た。すれ違うためスピードをゆるめたところバランスを崩したとのことである。
自転車は三人乗りの安全基準を満たしたものだった。子どもは二人ともヘルメットをしていた。しかし後ろの5歳児はシートベルトをしていなかった。シートベルトをしていた1歳児は怪我もなかったので、シートベルトをしていてくれればと悔やまれる。
子ども座席のベルト装着器具は、子どもが自分で外せないよう固くできているが、着けるのは2歳半くらいになると自分の力でできるようになる。だからベルト装着はお姉ちゃんに任せていたのだろう。ところが月曜日の多めの荷物と寒い季節の厚着のせいで、うまく着けられなかったのかも知れない。
ここで幼稚園の先生方にお願いしたいことは、機会あるごとに、ヘルメットとシートベルトを必ず着けることをお母さん達に呼びかけてほしいということである。特に入園式、始業式では園長先生から確実に伝えてほしい。「自転車に乗るたびに園長先生の声が聞こえてくるわ」と言われるくらい、繰り返し伝えてもらいたいと願うものである。

★車道の左側走行が一番安全
2009年3月、警察庁はこうした事故を防ごうと、自転車三人乗りを全面禁止し、幼児1人だけなら認める規制強化を打ち出した。しかし幼稚園児、保育園児を持つ母親は、多くの場合、下にもう1人子どもがいる。三人乗りの禁止は、自転車で幼稚園、保育園への送り迎えができなくなることを意味する。
これには全国の母親から抗議の声が湧き起こった。そこで同年7月、警察庁は方針を撤回し、安全基準を満たした自転車なら6歳以下の幼児2人までの同乗を認めることになった。基準を満たした三人乗り自転車は通常のものより2〜3倍も値が張るが、自治体がレンタル事業を始めたこともあって普及が進んだ。少子化対策に水を差さずに済んだわけである。
しかし自転車事故が急増する中で、三人乗りの事故も多い。2011年は311件の負傷事故があり、負傷者の8割が5歳以下で死亡事例も2件ある。そして今回の川崎の事故で、ふたたび三人乗りを禁止しようという動きが出ている。ここで見逃してならないのは、自転車事故の大半は、今回の歩道走行で見られるとおり、決められた交通ルールに従わず、あえて危険な走行をしているために起きていることである。
自転車を運転する上で一番大事なことは、車道の左側を交通法規どおりに、スピードを抑えて走ることにある。自転車愛好家なら誰でも知っているが、これが一番安全なのである。
自転車も車両なのだから、車道の左側走行がルールだ。警察庁も繰り返し呼びかけているが、なかなか徹底しない。車と並行して走ることの不安感から、「歩道の方が安全」という心理が働くためのようだ。しかし歩道を走っていると、交差する建物陰の路地からスッと出てくる車、自転車、歩行者に不意を突かれ、よけきれずに事故となるケースが多い。したがって自転車事故の大半は歩道上で起きている。
その点、車道を走っていると歩道の幅の分だけ余裕があるので、路地から出てくる車、自転車がよくわかる。また道路をゆっくり正しく左側走行している自転車を脅かすような走り方をする車はめったにいない。ましてや子どもを乗せている自転車なら、車は十分な距離をとって追い抜いてくれるものである。
「車に幅寄せされて怖かった」という声も聞くが、それは自転車の走り方に問題がある。車道の左側走行で注意すべきは、㈰車道と歩道を出たり入ったりするジグザグ走行をしない、㈪信号待ちや渋滞で止まっている車の脇をすり抜けない、㈫一時停止などの標識を守り、絶対に信号無視しない、㈬交差点での二段階右折を励行する、ことである。
自転車が交通ルールを守らずに走っているから、車の運転者は驚き、邪魔者扱いしてくる。正しく走っていればちゃんと認めてくれる。特にトラックやタクシーのプロドライバーが認めてくれるものである。
できれば、バイクが日中でもライト点灯で走っているように、自転車も前と後ろにLEDライトを付け、昼間も点滅させながら走ってもらいたい。車運転者の注意を喚起するためである。
日本は今、車社会から自転車社会へ着実に移行している。この動きは加速するだろう。自転車が安全で便利で環境に良い乗り物だからだ。三人乗り自転車も、正しい走り方をしていればそうそう事故が起こるものではない。事故があったからといって、三人乗りを禁止するのではなく、正しい走り方を啓発・普及する方が大事である。幼稚園の園長先生も率先して自転車愛好家になり、その運動に取り組んでもらいたいと願っている。

自転車三人乗り事故についてのメッセージ(You Tube)

幼稚園情報センター・片岡進