BOOKレポ「始めませんか“弁当の日”」

お弁当から伝えよう世界平和と人類愛

竹下和男氏と鎌田實氏の食育対談

2010年7月3日
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自然食通信社刊・A5判180頁・定価1600円+税。

自然食通信社刊・A5判180頁・定価1600円+税。

竹下和男。1949年香川県生まれ。香川大学教育学部卒。香川県内の滝宮小学校、国分寺中学校、綾上中学校の校長を歴任して2010年3月定年退職。

竹下和男。1949年香川県生まれ。香川大学教育学部卒。香川県内の滝宮小学校、国分寺中学校、綾上中学校の校長を歴任して2010年3月定年退職。

鎌田實。1948年東京都県生まれ。東京医科歯科大学医学部卒。元長野県諏訪中央病院院長(現名誉院長)。日本チェルノブイリ連帯基金理事長。

鎌田實。1948年東京都県生まれ。東京医科歯科大学医学部卒。元長野県諏訪中央病院院長(現名誉院長)。日本チェルノブイリ連帯基金理事長。

★お弁当作るお母さんに自信と誇りを
幼稚園につきものひとつにお弁当がある。完全自家製、あるいは仕出し弁当方式や給食センター利用の給食を行っている幼稚園も多いが、それでも週に1、2度はお母さんの手作り弁当を持ってくるのが一般的だ。どんなに美味しい給食より、子どもたちにはお母さんのお弁当が一番嬉しいからだ。
 「粗食の日」を設け、お弁当の中身を「おむすび」だけにしている幼稚園もある。それでも子どもたちは「お母さんのおむすびだから世界一美味しい」と自信を持って言う。おむすびの中にお母さんの笑顔が入っているからだろう。母さんのお弁当は、保育所にはない幼稚園の良さのひとつと言える。
 しかし週に何回かのお弁当でも、お母さんの中には負担を感じている人がいるかも知れない。そんなお母さんに対して園長先生は、お弁当の効用を説いていることと思うが、その参考になるのがこの一冊だ。
 完全給食が当たり前の公立の小中学校で、子どもたちが自分で弁当を作って持ってくるという運動が、全国にじわじわ広がっているのを知っているだろうか。火を付けたのが香川県で校長を勤めた竹下和男氏だ。
毎日の給食に多くの人々が知恵を絞り、力を尽くしているわりには子ども達の給食に対する関心が薄く、食べ物を粗末にしている傾向があることから、それなら自分で弁当をつくる経験をしてもらおうとの発想で始まったものだ。「弁当の日」と呼んでいる。
 その日、お弁当は子どもだけでふたつ作る。ひとつは自分が学校に持っていって食べ、もうひとつは家族の誰かに渡す。結果は、子ども達は食の関心を高め、弁当の持つ深い意味、作る喜びを感じると同時に、家族の絆や生きる意欲まで強めることになった。
わが子からお弁当をもらった父親は、職場で涙にくれて食べられず、病院のベッドで受け取った祖母は「自分はこれまでたくさんの弁当を家族に作ってきたが、家族が自分のために作ってくれた弁当はこれが初めてだ。長生きして良かった」と手を合わせたという。子どもと家族の間にこの上ない教育効果を生んだのである。
 中でも感銘を受けるのが、竹下氏が綴った20行の「弁当を作る」という詩だ。弁当の日を経験して卒業していく教え子に贈ったものだが、「食事を作ることの大変さがわかり、家族をありがたく思った人は優しい人です」「シャケの切り身に生きていた姿を想像してゴメンが言えた人は情け深い人です」など、20行の中に人間の心のすべてが凝縮されている。参考までに詩全文のPDFファイルを添付したので、機会があればプリンとしてお母さん達に渡してもらいたいものである。それを冷蔵庫にでも貼ってくれれば、お母さんの作るお弁当の価値を自ら見直し、その思いは子どもの中に染みこんでいくだろう。
 このお弁当をテーマに竹下氏と、「がんばらない」「あきらめない」でお馴染みの、諏訪中央病院の鎌田實氏が対談しているのがこの本である。
 2010年3月に定年退職し、今は講演や執筆活動で「弁当の日」の普及に努めている竹下氏は、他に「弁当の日がやってきた」「台所に立つ子どもたち」の著作がある。どれも幼稚園での食育活動の参考になるが、この本はお弁当から世界平和、地球環境、人類愛にまで発展する壮大なスケールなので、幼稚園の先生たちにとって、お母さんたちと話す材料をたくさん見つけることができることと思う。

★リーダーシップとカメラアイの参考にも
 また園長先生たちには、竹下氏の校長としてのリーダーシップも参考になる。給食制度の確立した公立学校では、お弁当教育は教職員にとって「守備範囲」の外である。そんな、やらなくてもいい活動をわざわざすることには当然教職員から強い反発があった。そこをどう説得し、教師の守備範囲を広げていくことに成功したか、読みとってもらいたい。
 もうひとつ参考にしてほしいのは、同書に掲載されている子ども達の生き生きした写真。すべて竹下校長が撮影したものでプロ顔負けの出来栄えだ。教科担当を持たない校長になった時、竹下氏は高級カメラを買い、「これからは大好きな子どもたちの写真を存分に撮る。先生たちの研修資料にもなるだろう。それは校長だからこそできる嬉しい仕事のひとつだ」とカメラを下げて学校内を歩き回り、10年間で4万枚以上の写真を撮ったという。
校長先生が残した学校の財産であり、子どもたちにとってかけがえのない宝ものである。それは幼稚園の園長にとっても、園長だからこそできる嬉しい仕事のひとつではないだろうか。カメラから発信する教師愛も感じ取って、ぜひとも実践してもらいたいものである。

【添付資料】詩「弁当を作る」(PDFファイル)
幼稚園情報センター代表・片岡 進