★支持率ゼロでも辞めない
落語「居残り佐平次」ならぬ政劇「居座り直人」。ブーイングの嵐もどこ吹く風と居座り続ける菅首相をどう始末するか。これが今や日本国家最大の命題になっている。菅首相を撤去しなければ震災復興も原発事故対策も進まず、日本が沈没してしまうからだ。自らの失態も閣僚の任命責任もケロッと認めてなお居座る姿は、引き際の潔さをリーダーの美学とする日本人の目には信じがたい光景だ。
しかし、この光景を早々に予見していた人がいる。高崎経済大学の八木秀次教授だ。1996年の鳩菅新党(旧民主党)旗揚げ当初から民主党の素顔を観察してきた人である。2011年4月23日、全埼玉私立幼稚園連合会(平原隆秀会長)の園長研修会で講演した八木教授は、「あの人は辞めない。支持率がゼロになっても辞めない」と言った。2010年11月、鳩山前首相に「たとえ支持率が1%になっても辞めない」と伝えた菅首相の根性をさらに1%強化したのである。
その八木教授の講演内容から、居座りの背景と意図を探ってみよう。
社会市民連合初代代表の故・江田三郎氏(旧日本社会党書記長、元参議院議長・江田五月氏の父親)、政治学者・松下圭一氏(法政大学名誉教授)らを師と仰ぐ菅直人氏は、旧社会党・構造改革派の流れを汲む人で、マルクス・レーニン主義による社会を、暴力革命ではなく平和的手法で実現しようとするグループの旗頭なのである。苦節30年、執念実ってようやく国のトップになったのだから、1分1秒でも長く首相の座にとどまることで同志を幅広く主要ポストに就け、その政治思想を根付かせるというか、ひとつでも多くの時限爆弾をあちこちにセットしたいのである。
★居座りの論拠は二つ
菅首相が居座る論拠は次の二つだ。
(1)衆議院の選挙で多数を得た政党は、マニフェストに書かれた内容をすべて承認されたうえで、国民から任期4年間の白紙委任をもらったものである。その間、与党は独裁的に政治・行政を進めることができる。
(2)“国会内閣制*"により与党の代表が首相となるが、その権限は米国大統領制にも劣らない強い力を発揮できる。権力は絶対的なもので、誰の話も聞かなくていい。それが政治主導である。(*菅氏が言う国会内閣制は、通常の議院内閣制とは違い、独裁的与党を基盤にした専横政治を意味している)
つまり、2009年の総選挙で圧倒的多数を得た民主党は4年間の政権運営を任され、自分は党の代表に選ばれた。だから任期をまっとうするのは当たり前だという発想である。それを拠り所に与党、国会、国民を欺き、巧みに波乗りしているわけだが、菅氏自身は「正当な欺瞞行為」と思っていることだろう。
民主党政権が露骨に進める「密室的かつ強権的」手法も、この論拠を聞けば納得できる(納得してはいけないことだが)。
そうまでして実現させたい菅政権の目標は何なのか。それは1848年、エンゲルスとマルクスによって書かれた「共産党宣言」に示されている「国家の死滅」と「家族の廃止」という二つの目標に通ずるものだと八木教授は言う。
「国家の死滅」とは、自民党政権が営々と積み上げてきた戦後日本の国家体制を崩壊させることだが、「菅首相の存在が日本をダメにする」という言葉は、ある意味、菅さんへの賛辞になのかも知れない。
★家族の最後の砦が幼稚園
「家族の廃止」とは、家族、夫婦、親子のしがらみから個人を解放するということである。父親が働くのも、母親が働くのも、家や家族のためではなく、あくまで自分のためであることを理想とするわけだ。夫婦別姓の議論もこの中に含まれ、「子ども手当」は親に育ててもらったという経済的恩義を、子どもの意識から軽減するためのものだという。それゆえ所得制限をつけない理屈も生まれてくる。
この目標の一番の障害になっているのが「幼稚園」である。父親が働き、母親が家事と子育てを担当し、助け合いながらほのぼのとした家族生活を楽しむ人達にとって、最後の砦になっているのが幼稚園だからだ。「専業主婦という病気」を退治するためにも幼稚園をつぶしたいと願っているのが政権の人達で、そこから「こども園構想」が生まれたわけである。
しかし、長い歴史の中で醸成され定着してきた国家、社会、国民の意識が、旧社会党・構造改革派の机上の理論で簡単に転換されるものではない。民主党の政治家が皆同じ思想にあるわけでもなく、逆に多くは自民党のDNAを引き継いでいる。だからこそ、政権中枢を含め国全体から菅首相への批判が高まってきたのだ。
『小沢一郎は背広を着たゴロツキである』(2010年刊・飛鳥新社)を著した評論家の西部邁(にしべ・すすむ)氏は、ゴロツキ政治家を「マナー外れの、モノ狂いじみた、一人よがりな政治家」と定義づけている。ゴロツキの本来の意味は「あちらこちらをうろついたりして、脅しなどを働くならず者」であるが、その両者を当てはめれば、菅直人氏はまさに「ゴロツキ首相」である。
「菅首相を引きずり下ろすには民主的方法では無理だ。何か物理的方法で強引に下ろすしか手はない」と八木教授は指摘する。落語「居残り佐平次」では、金を払わずに居座り続け、幇間顔負けで客を楽しませる佐平次に遊郭の店主が音を上げ、大金を持たせた上に平身低頭して出ていってもらうことになった。果たして「居座り直人」は、どんな物理的方法で官邸を出ていくことになるのだろうか。これもひとつの注目点である。
(注)八木秀次氏の論点は、「私幼ヘッドライン」に掲載の記事「論客が指摘するこども園構想の問題点」およびそこに添付してある資料「
こども園は羊の皮をかぶった共産主義政策である」をご参照ください。
幼稚園情報センター・片岡 進