日経新聞・吉田論文への疑問

認定こども園の成熟には時間がかかる

2008年3月23日

《この記事のポイント》

★認定こども園が増えない要因は何か
3月21日(金)の日本経済新聞夕刊に「認定こども園の課題」という記事が載った。雑誌『遊育』の吉田正幸編集長の寄稿論文である。
2006年10月に認定こども園制度がスタートしてから1年半。幼保一元化への待望から認定こども園も順調に増えていくだろうと期待されていたが、それがなかなか進まない。「なりたい」とたくさんの手は上がっているが、多くはさまざまな壁にぶつかって挫折してしまう。
そこでその要因を見つけ出そうと日経が吉田編集長に寄稿を依頼した。わが業界の一番の事情通が、複雑にからんだ問題構造を解き明かしてくれたわけだが、「おや、これでいいのかな?」と思う部分が多々あった。新聞紙面という限られた字数での舌足らずだったのかも知れない。
しかし大メディアに載ってしまった以上、吉田論文が「認定こども園の問題構造」として定着するのは避けられない。ただ一方の当事者である幼稚園関係者には、正しい認識、冷静な視点を持ってもらいたいと思い、この一文を書くことにした。
日経新聞の記事を読んだ方は多いと思うが、読んでいない方は別掲の記事全文に目を通してから本文を読んでほしい。

★無認可施設の存在は無視できない

吉田論文は最初に「制度面で一つはっきりしているのは、財政措置が不十分なことだ」と指摘する。
たしかに多くの幼稚園経営者から「幼稚園型の認定こども園になっても補助金はゼロだ。逆に事務処理が増えて、組織も複雑になる。メリットがなくてデメリットばかりの制度には乗れない」との声を聞く。
「幼稚園型」とは、幼稚園で現在行っている預かり保育の部分、あるいは未就園児教室の部分を“無認可保育所”と位置づけて認定こども園になるスタイルだ。
幼保一元化に向けての超苦肉の策として誕生した認定こども園制度は、とりあえず現行の幼稚園制度と保育所制度を組み合わせるしか道がなかった。したがってそのような形になるのはやむを得ない。
逆に「保育所型」というのは、保育所内の自由契約児(短時間利用児)の部分を無認可幼稚園にするスタイルだ。
現在、幼稚園の預かり保育に対しては、十分ではないが“子育て支援対策”として都道府県からなにがしかの補助金が出ている。しかし認定こども園になると、そのわずかな補助金も打ち切られる可能性がある。補助金を出せない無認可保育所になってしまうからで、地域内の他の無認可保育所への対応と足並みを揃える必要もあるからだ。
逆に東京都のように無認可施設(認証保育所)に相当額の補助金を出している場合、同じ方式で認証を受ければ幼稚園型でも同額の補助金を受けることができる。「東京はいいな~」と言われる所以である。
「幼稚園機能、保育園(所)機能に対する一定の財政支援を行う」べしと吉田編集長はすっぱり結論づけるが、世の中には無認可保育所が多数あることを忘れてはいけない。同様に保育所ほどではないが無認可幼稚園も多くある。認可幼稚園より無認可の方が多い地域も珍しくない。
「幼稚園型」および「保育所型」の認定こども園に補助金を出すなら、他の無数とも言える無認可施設にも同じ補助金を出さないと筋が立たない。
そしてすべての無認可施設に補助を出すという英断を下したとしたら、その財源は既存の保育所、幼稚園に対する財源を大幅に削ることになり、既存施設からの反発は必至だ。簡単には「そうだ、補助を出そう」とはならないのである。
幸い最近は、保育所界でも無認可や認証施設から「同じ税金を払っている市民なのに、認可保育所に通っている子と無認可施設に通っている子で、どうしてこれほどまでに財政的な差がつけられるのか」という声が大きくなってきた。
「同じ日本人の子なのに、保育所の子と私立幼稚園の子で10倍もの財政格差があっていいのか」と訴える私立幼稚園の主張と同じ正論である。「学校法人立幼稚園と102条園との間に格差があるのもおかしい」の論にも共通する。
こうした当事者(=子ども)の権利を置き去りにした制度間格差はどこにでもあり、一朝一夕には解決できない。これを打開するには、デメリット覚悟の“幼稚園型認定こども園”が増え、他の無認可保育所とも連携して政府をジワジワ締め上げていくしかないだろう。

★新たな認可保育所を阻む保育所の壁

「そんな気の長い話を待ってはいられない」という幼稚園は「幼保連携型認定こども園」をめざす。これは無認可ではなく、きちんと認可された保育所を幼稚園に組み込むもので、社会福祉法人立であれ学校法人立であれ認可である以上、行政も堂々を補助金を出すことができる。
幼稚園も保育所も、とてもボランティアでは運営していけない。子どもを安全に健全に預かり育てていくには相当のお金がかかる。幼保連携型になって補助金を受けようとするのは自然の考えである。
しかしこの認可がなかなか得られない。幼稚園が新たな認可保育所を設置するのを、旧来の認可保育所と保育所行政サイドが徹底して阻止しているからだ。待機児童が多いとされる地域では渋々ながらも俎上に載るが、少ない地域では「必要ない!」と一蹴される。門前払いなのである。
幼保一元化も認定こども園も、「親が、近くの施設、好みの施設を自由に選べるように」することが前提であるはずで、待機児童の有無は関係ない。選ぶのは親なのだから。保育所が幼稚園の保育所新設を拒むのは、「幼稚園との競合に負けるかも知れない」という経営不安が潜んでいるからだと言わざるを得ない。
もともと保育所側は認定こども園制度に反対していた。しかし世論を考慮して大っぴらに反対するわけにもいかず静観していたが、この保育所認可の部分を押さえておけば、認定こども園制度は骨抜きになると踏んでいる。
このことについて吉田論文は「補助があるのは、既存の幼稚園と保育園(所)が統合・併設されたタイプのこども園だけだ」と言っている。つまり「幼稚園での保育所新設は無理なんです」と言っているわけで、保育所サイドの意向に沿ったものと言わざるを得ない。
保育所側も、幼稚園が設置している既存の認可保育所を組み込んでの認定には異論をはさんでいないが、今のままで所定の補助金が受けられるのだから、わざわざ認定こども園になって、組織を複雑にしたりポストを増やす必要はないと考える。したがって補助金が受けられるタイプでも認定こども園は増えないのである。

★事務作業の繁雑は行政の嫌がらせ

次に吉田論文は「会計・事務処理はそれぞれの省のルールで行わなければならない。運営する側からすれば煩雑で面倒というのが実感だろう」と指摘している。これは現実である。
しかしこれも、旧来の保育所および保育所行政サイドの嫌がらせと言わざるを得ない。やむなく幼稚園型を選択して無認可保育所を併設した場合でも、行政は、その基準、報告、書類の提出、立ち入り検査などを認可保育所と同じように求める。
「子どもの安全」を盾にするので強く反発できないが、補助金はゼロなのである。政令市の場合はその行政指導が市と県の両方からくるのだから、事務担当者が音を上げるのも無理はない。「だったら認可しなさい」と誰もが思うが、それはしない。
「だから認定こども園なんてやめればよかったのに」と行政担当者がヘビの生殺しを楽しんでいる、としか言いようがない。

★子どもも保育者も保護者もみんな同じ

最後に吉田論文は「保護者から見た問題は何か」を取り上げ、「ひとつは幼稚園の保育者(幼稚園教諭)と保育園(所)
の保育者(保育士)の意識や保育観の違い。前者は教育という意識が強く、後者は養護(ケア)の意識が強い」ことをあげ、さらに「保護者の意識や考え方にも違いがある。幼稚園利用の保護者は教育に対する期待が高く、園の行事などへの参加をいとわない。一方、保育所利用の保護者は行事に参加したくてもなかなかできない」と指摘し、そこから人間関係の軋轢やズレが生ずるとしている。
一見、「なるほどな」と思われるかも知れないが、これは机上のイメージだ。
研修会やシンポジウムでは、そうした意識の違いが色濃く見えるのかも知れないが、実際の現場に入っていったらどうだろう。幼稚園の子どもも保育所の子どもも、みんな同じであるように、保育者も保護者も、その心はみんな同じである。
幼稚園の先生が保育所に異動になったり転職することはよくある。逆もある。でも大半の人は、特に子どもとの対応の点では違和感なくやっている。それどころか、前の経験を生かして教育内容や保育内容にいっそう磨きがかかり、職場も活性化する例の方が多い。
保護者にしても、自治会や子ども会で、幼稚園のお母さんと保育所のお母さんが一緒に和気藹々と作業をしている姿を見れば、見えない垣根を立てる方がおかしい。
芋掘り遠足や音楽会、お誕生会など保育所の行事を覗いてみるとわかるが、「幼稚園に来てしまったのだろうか」と思うほど親の姿が多い。日頃子どもと接する時間が少ないので、こんなときこそ頑張ろうと思うのかも知れないし、職場の理解も深まっているのだろう。運動会や観劇会、発表会は言わずもがなである。
百歩譲って吉田編集長が指摘するとおりに意識のズレがあったとしても、それが認定こども園の阻害要因になっていることはあり得ない。

★じっくり煮込んでいくしかない

日経新聞が吉田編集長に寄稿を依頼したのは、認定こども園の移行がはかばかしくないことに、「一体どうなっているんだ!」と経済界、政界、政府がイライラ感を募られていることがあるのだろう(政府のイライラ感はポーズだろうが)。この吉田分析で多少の鎮静効果はあるかも知れないが、かえって両者の間の垣根を補強してしまったような気がする。
少子化が進行する中、気がせくのはわかるが、50年もかけて議論し、ようやく扉が開いた幼保一元化の道である。一気に理想のゴールに駆け込むことの方が不自然だ。無認可施設の問題など制度の歪みを少しずつ直し、ヴァウチャー制度などの検討も加えながら、弱火でじっくりと煮込んで認定こども園制度を仕上げてもらいたいものだ。
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幼稚園情報センター 片岡 進