2003年の三浦提言がいよいよ実現へ

再浮上「こども庁」構想への期待

変化する時代の空気が後押しに

2021年6月27日
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山田太郎参議院議員、自見はなこ参議院議員、菅義偉首相、木原誠二衆議院議員

2021年4月1日、自民党若手研究会の代表が菅首相に提言書を手渡した。
左から山田太郎参議院議員、自見はなこ参議院議員、菅義偉首相、木原誠二衆議院議員。

三浦貞子(みうら・ていこ)

三浦貞子(みうら・ていこ)
青森市・白ゆり幼稚園元理事長&園長。元全日本私立幼稚園連合会会長(在任1998年5月〜2008年5月)、元一般社団法人青森県私立幼稚園連合会会長。
2012年10月没・90歳。

★衆議院選挙の目玉政策に
 2021年4月13日、自民党は二階幹事長をトップとする「『こども・若者』輝く未来創造本部」を発足させました。大仰な名称ですが、要は「こども庁」創設の議論を行う場です。設置法案は2022年通常国会での成立を目指すとしています。
 幼保一元化のための「こども庁構想」は、幼稚園・保育所関係者の間で1970年代から議論されてきました。しかし政治家、官僚はもとより一般社会でも「何をバカなことを!」と一顧だにされませんでした。子どもの存在感が弱かった訳ではありません。「子育ても幼児教育も大事だが、内閣に別組織を作ってまでやるものではない」というのが当時の時代認識だったのです。
 ところが21世紀になって空気が変わり、子ども政策の重要性が高まりました。まず政権に訴えたのは2003年2月、全日本私立幼稚園連合会がまとめた「幼保制度の抜本見直しに関する政策提言」でした。それは「内閣府に小学校入学前の乳幼児の教育・養護のあり方を検討する会議を設置し、子ども庁の創設も議論すべし」と、かつてなく踏み込んだ内容でした。自民党と太いパイプを持つ三浦貞子会長(青森県・白ゆり幼稚園/故人)が、小泉首相と森前首相にネジ込んで、党政調会の前向きな取り組みを約束させたのです。
 政調会に新設された少子化問題調査会の会長に就任した森氏は、内閣府に全日私幼連の政策提言を具体化するよう指示しました。その結果生まれたのが、2006年の総合施設(旧認定こども園)制度でした。「こども庁構想」が棚上げされて森会長は不満を示しましたが、官僚の抵抗をねじ伏せる状況には、まだ遠かったのです。
 その後2009年に政権交代があり、チルドレンファーストを掲げた民主党は「子どもの権利条約」を柱にした「子ども家庭省」設置法案を準備しました。しかし官僚の抵抗は相変わらずで、「これは無理だ」と判断した小宮山厚労相は法案提出を見送り、内閣府に「子ども子育て会議本部」を設置し、新しい認定こども園制度をスタートさせました。この流れが現在まで続いています。
 そして今回、再浮上したのが自民党自ら旗を振る「こども庁」です。仕掛けたのは、実業家の山田太郎氏と小児科医の自見英子(はなこ)氏という異色の参議院コンビです。「次の総選挙の目玉にどうですか」と提案すると、菅首相は即座に食いつきました。2017年10月の総選挙は、消費税アップのマイナス要素を抱えながらも、安倍首相は「幼児教育無償化」を前面に出し、マイナスを消して余りある勝利を得ました。子ども政策が票になることを実証した選挙でした。その二匹目のドジョウが「こども庁」という訳です。自民党の姿勢は本腰で、民主党政権のチルドレンファーストも、「子どもの権利条約」の柱も全部取り込む気配です。専用のHPも開設しました。さらに、この10年で官僚組織は弱体化し、政治主導に抗う力はほとんどありません。

★文科省と内閣府の綱引きも
 ここまでお膳立てができれば、総選挙で期待どおりの成果が出なかったとしても、「こども庁」の実現は間違いないことでしょう。ひとつ心配なのは「太郎&はなこ」の提言内容が、幼児教育・保育の枠を超え、不妊治療から少年犯罪まで非常に幅広いことです。厚労省、文科省、総務省、法務省、警察庁が所管する子ども施策を総ざらいする大風呂敷なのです。次の選挙は、大風呂敷のままで闘うことでしょう。選挙後に戦線縮小して現実的なものに絞ると思います。組織についても、特命大臣直属の内閣府機関となるか、文化庁やスポーツ庁のように文科省の外局になるか攻防があると思います。小学校・中学校に進んでいく子どもの人生を考えれば、文科省と繋がるのが望ましいと思います。そして幼児教育・保育の一元化という構想の原点に立ち返って、「こども庁」は歩き出してほしいと願っています。
ようちえん情報センター 片岡 進