全日私幼PTA全国大会で発表

2016参院選、私立幼稚園は山谷えり子氏を推薦

人生で必要な知恵はすべて幼稚園で学んだ

2015年8月17日
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山谷えり子(やまたに・えりこ)

山谷えり子(やまたに・えりこ)
国家公安委員長、防災担当大臣。参議院議員。1950年9月生まれ、福井県出身。聖心女子大文学部卒。教育再生担当首相補佐官、自民党参議院政審会長、テレビキャスター、サンケイリビング新聞編集長などを歴任。

ロバート・フルガム

ロバート・フルガム
1937年生まれ、テキサス州出身。
さまざまな職業を経験してワシントン州シアトルで牧師を務め、説法師として活動した。

日本で刊行されたときの単行本。現在は河出文庫になっている。

日本で刊行されたときの単行本。現在は河出文庫になっている。

★幼稚園の生活規範を日本中に広げよう
 2015年7月13日(月)、東京虎ノ門のホテルオークラで行われた全日本私立幼稚園PTA連合会(河村建夫会長=衆議院議員・元文部科学大臣)全国大会でのことである。安倍首相の挨拶が終わったところで、PTA連の山本順三副会長(参議院議員・自民党文部科学部会幼児教育小委員長)が立ち上がった。次の挨拶は下村博文文部科学大臣だったが、それを遮り「公務でどうしても帰らなければならない大事な人を紹介させてください。山谷えり子さんです。実は来年の参議院選挙の比例区で、全日本私立幼稚園連合会(香川敬会長=山口県・鞠生幼稚園)とPTA連合会は、山谷さんを統一推薦候補にすることを決定しました。皆さん、よろしくお願いします」と発言した。
 山谷氏は国家公安委員長ならびに防災、北朝鮮拉致問題などを担当する内閣府特命大臣である。難しいポストで、何かと矢面に立ちやすい立場でもある。その前は教育再生担当の首相補佐官として教育問題に取り組んできた。それだけに自民党としては落とすわけにいかない。しかし本人は選挙に強いと言えない。そこで、2013年参院選比例区で、橋本聖子氏を自民党の得票順位6位に押し上げた私立幼稚園が応援することになった、というわけである。
 「ほんの一言」の挨拶を求められた山谷氏は、「私、子どもたち、そして孫たちと親子三代そろって私立幼稚園にお世話になりました。大事なことはすべて幼稚園で教わりました。ロバート・フルガムさんの本『人生で必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』が大好きです。ここに書いてあることこそ一番大事です。幼稚園の知恵を、選挙を通じて全国に広げていきます」と述べた。
 さすが元ジャーナリスト(元・サンケイリビング新聞編集長)である。場を考えて話のツボを抑えるのが上手だ。そしてPTA連の河村会長が、折に触れてこの本を取り上げている情報も持っていたのかも知れない。
 私も仕事柄、この本はすぐに買い、何度も読んだ。たくさん啓発された。しかしこのところ忘れていたので、山谷えり子氏が取り上げたこの機会に、この本のことを少し紹介したいと思う。

★今こそ必要なロバート・フルガム氏の説法
 今は文庫版(河出文庫)になった同書は、1988年に米国で出版された。ロバート・フルガム氏の文章52篇をまとめた、いわばエッセー集である。その最初に載っている約2400字の文章のタイトルが、そのまま本の題名になっている。幼稚園について記述があるのはその1篇だけなので拍子抜けするかも知れないが、幼稚園で学んだ知恵で残り51篇が書かれていると思えば良いだろう。いずれも含蓄深いものである。
 哲学者を自称するロバート・フルガム氏は、エッセイストやコラムニストとは違う。今どきのブロガーとも違う。町のあちこちで人々に語りかける説法師である。アメリカ人はスピーチを聞くのが好きで、スピーチの上手な人は高く評価される。クリントン、オバマのようにスピーチ力で大統領まで上り詰めることができる。
 ロバート・フルガム氏も面白い話をする人で、あるとき町の小学校の卒業式で話したのが「……すべて幼稚園で学んだ」だった。感動した聴衆の一人に上院議員がいて、スピーチ草稿をもらって、それを連邦議会の議事録に掲載した。そこからどんどん広がり、他のスピーチ原稿と合わせて大手出版社から刊行された。最初の1年だけで370万部という驚異的ベストセラーになったのである。
 ちなみに原題は「All Really Need to Know I Learned in Kindergarten」なので、正しくは「人生に必要な知恵は幼稚園で学んだ」である。「砂場」は日本語版で象徴的に付け加えられたもので、「砂場」にこだわらず幼稚園全体と考えるべきである。
 その学んだ知恵とは、「何でもみんなで分け合うこと」「ずるをしないこと」「人をぶたないこと」「使ったものは必ず元のところに戻すこと」「ちらかしたら自分で後片付けをすること」「人のものに手をださないこと」「誰かを傷つけたら、ごめんなさい、と言うこと」……など10数項目があがっている。どこの幼稚園でもふつうに教えていることだ。
 そしてこれらは、家庭生活、会社の仕事、国の行政に置き換えてもすべて通用する。人々が幼稚園で学んだことをきちんと実行したら、世界はどんなに良くなるだろう、と結んでいる。この当たり前の幼稚園規範が1980年代末のアメリカ人の心を激しく揺さぶったのである。奇しくもレーガン大統領が「危機に立つ国家」というステートメントを発表し、荒廃した教育を再生しようと呼びかけた頃だ。
 日本での刊行は1990年。アメリカのようなベストセラーにはならなかった。まだバブル経済の中にあったので、社会規範の崩壊に対する危機感が弱かったのかも知れない。しかし25年後の今、日本は改めてこの本を必要としていると思う。山谷えり子氏の遊説活動と幼稚園思想の拡大を期待したい。

(参考資料)
・幼稚園で学んだことの内容・本の裏表紙(PDFファイル)

幼稚園情報センター・片岡 進