ジャクパ特別講演会で川淵三郎氏

子どもの体力維持、頼みの綱は幼稚園

「なぜ働く?」の疑問残した浜田氏の講演

2017年4月19日
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川淵三郎(かわぶち・さぶろう)

川淵三郎(かわぶち・さぶろう)
1936年12月生まれ、大阪府高石市出身。早稲田大学商学部卒。
首都大学東京理事長、元サッカーJリーグチェアマン、元バスケットボールBリーグチェアマン。元サッカー日本代表監督、元日本サッカー協会会長。

浜田敬子(はまだ・けいこ)

浜田敬子(はまだ・けいこ)
1989年朝日新聞入社。朝日新聞総合プロデュース室プロデューサー、元雑誌『AERA』編集長。

★鬼ごっこで鍛えられる脊柱起立筋
 2017年2月10日(金)、株式会社ジャクパ(五十嵐勝雄社長/本社=東京小平市)が主催する「幼児教育特別講演会」が開催された。今年のメイン講師は元サッカーJリーグチェアマンの川淵三郎氏。サブ講師は朝日新聞・雑誌『AERA』の元編集長・浜田敬子氏。ジャクパは体育と英語の講師派遣を通じて教育活動を支援する会社で、幼稚園、保育園、認定こども園経営者ら約200人が東京信濃町の明治記念館に集まった。ジャクパが毎年この時期に講演会を開催するのは、2月15日が同社の創立記念日にあたるためで、今年は創立45年目。
 同社は、講師派遣のほか環境整備、旅行、経営対策など幅広い事業を展開しており、講演会は新しい事業を関係者に紹介する場にもなっている。今回は業務処理や情報発信の効率化で注目されるICT(情報通信技術)に焦点を当て、サンロフト社の園児管理システム「パステルApps」と、ハグモ社のコミュニケーションアプリ「hugnote」が紹介された。
 さて肝心の講演である。川淵氏はユーモアあふれる語り口ながらも、年々低下する日本の子ども達の体力と運動能力を憂い、「頼みの綱は、もう幼稚園と保育園しかない。何とかお願いします」と訴えた。その主な論点は以下のとおり。
 「地域とスポーツの融合をめざして1993年にサッカーJリーグを発足させた。目的のひとつに子ども達の体力、運動能力の維持向上があった。Jリーグは想像以上の成果をあげた。しかし子どもの体力低下には歯止めがかからない」「栃木県の幼稚園で、園児に万歩計を持たせて調査をした。1984年は1万6千歩だったが今は9千歩だ。幼稚園での歩数は大体同じだが、家に帰ってからの歩数が大幅に減った」
 「体幹力が弱く、まっすぐ立っていられない。すぐに寄りかかったり座ってしまう。それは身体を支える脊柱起立筋が発達していないからだ。3〜4歳の頃の、全力で走る鬼ごっこや駆けっこで脊柱起立筋が育つ。その経験が足りない」
 「身体、脳、神経の発達がマッチし、運動能力が飛躍的に伸びるのが8〜12歳のゴールデンエイジ。難しい技能もすぐにマスターできる。ただし、その前の6〜7歳のプレゴールデンエイジに十分な運動ができていないと、ゴールデンエイジが生きない。肝心なのは幼稚園年長の時の運動量だ」
 「私の孫は運動音痴で、水泳教室に1年間通って、ようやく水に顔をつけられるようになった。でもコーチは怒ったり、諦めたり、ほかの子と比較しないで、辛抱強く待ってくれた。そのおかげで今はどんな泳ぎも自由にできる。先生や指導者の役割は大きい」
 「大阪の幼稚園の例だが、年長さん34人が、毎朝、パンツひとつで5キロ走り、園内を雑巾掛けする。70代の園長さんも裸になって一緒にやる。子ども達は裸とマラソンと雑巾掛けと園長さんが大好きだ」
 こうした話の合間に、川淵氏は、超ローカルな鹿島アントラーズがJリーグ発足時のメンバーになった逸話や、分裂していたバスケットボール界をBリーグにまとめた裏話を語った。これも参加した経営者には貴重な刺激剤になったようだ。

★体調悪くても休めない母親
 現在10歳になる女児を育てながら仕事を続けている浜田敬子氏は、自分と同僚の体験をもとに「働く母親の実状と苦悩」を語り、保育関係者の理解を求めた。概略は以下のとおり。
 「故郷(山口県)から自分の両親を東京に呼び寄せて娘の世話をしてもらった。新聞記者をしている夫も育児休業をとって協力してくれた。私は疲れ切り、夜泣きの対応はほとんど夫だった」
 「短い時間でもしっかり愛情をかけたと思っているが、チック症になったりして、娘には辛い思いをかけた」「宿題を見てもらったり、塾や稽古事に通わせてもらったり、自分たち世代は親からたくさんの愛情をもらった。それを自分の子どもに返すことができないのが辛い」
 「保育園の迎えがあって残業ができないので、昼休みもとらずに働いた。満員電車の中、立ったままスマホで原稿を書いた同僚もいた」「子どもがいるというだけで、仕事に対して正当な評価が得られない。これが何より辛い」「保育園からはいろいろなことで注意を受ける。迎えの時間に遅れると厳しく叱られる」「職場のストレス、家庭のストレス、保育園でのストレス……。働く母親はみんな体調が悪い。しかし子どもが病気の時に休まなくてはいけないので、自分の体調で有休を使うことはできない」
 そのほか、ワンパターンの食事メニュー、すし詰めの学童保育、理解のない小学校教師など、浜田氏の話は生々しかった。「幼稚園、保育園の方々には、どうか私たちの苦しさをわかってほしい」と何度も訴えた。しかし、そこまでストレスをため、自分の体調を悪くし、家族を犠牲にしてまで、どうして働き続けるのか、その理由がわからなかった。特に浜田氏の場合は、夫の収入だけで十分に暮らしていく環境にあると思える。プロ職業人としての意地なのだろうか……。疑問を引きずる講演だった。
 そんな思いで席を立つと、近くの参加者から「働く母親の気持ちはわかる。だが、そのやり切れなさを保育園にぶつけられても困る。我々は子どものために、母親にも言うべきことを言う。するとバトルになる。今度は職員がストレスを抱えて保育園を去る。悪循環だ」という声が聞こえてきた。

※ジャクパ特別講演会の様子(YouTube動画)

幼稚園情報センター・片岡 進