★幼児期の教育投資が健全な社会をつくる
幼児教育の無償化に向けて、その課題や方向性を検討する文科省の専門家会議「今後の幼児教育の振興方策に関する研究会」(無藤隆座長)の第4回会合が、8月21日(木)に開催された。(委員名簿は末尾に記載)
これまで3回の会議では、諸外国の事例を確認し、日本で無償化を行う場合に対象となる年齢、経費などを協議してきた。その結果、「対象年齢は3歳からとするが、導入は5歳から順次拡大する形でも良い」「無償化でカバーするのは幼稚園での標準4時間に該当する部分」「無償化と義務化は繋がりやすいが小学校入学年齢を引き下げることとは一線を画すべき」などが大筋で合意された。
これを受けてこの日の会合は、委員の専門的見地から話を聴く形がとられ、大竹文雄氏(大阪大学社会経済研究所長&教授)、森上史朗氏(子どもと保育総合研究所代表)の両委員が意見を述べた。
大竹氏は、経済学および財政投資効率から見た無償化の有用性について、ノーベル経済学賞を受けたジェームズ・ヘックマン教授(米シカゴ大学)の一連の追跡研究を紹介した。
内容は、6歳までの幼児期に十分な教育投資を行えば、その後の学力向上、生活力向上(犯罪者になる率が減り、持ち家率が上がるなど)に明らかな成果がみられるというもの。
中学生、高校生になった子ども、あるいは職業訓練を受けるような人に教育投資をしてもほとんど成果はないが、幼児教育に力を入れれば、学力面でも生活面でも健全な人間に成長する確率が高いということである。
IQ(知能指数)が向上するわけではなく、社会的成功に必要な能力(根性、忍耐、やる気など)を育てることに成果があり、その結果、幼児教育が十分に行われた子どもについては、その後の教育投資も有効に生きてくることも明らかになったという。
つまり、思い切った公費投入で幼児教育を無償化すれば、日本社会全体の経済性が良くなり、社会資本投資としてはどんな投資より効率が良いという指摘である。
「三つ子の魂百まで」「幼児教育こそ人間形成の基礎」と言われてきたことを経済学的側面から論証したものと言える報告だ。
★行き過ぎを是正する評価が必要になる
こうした論点は、これまで幼児教育界ではあまり聞かれなかったことなので、新たな説得力を生むものと思われる。しかし日本の現実は、一口に幼児教育といっても幼稚園から無認可施設まで幅が広く、幼稚園の中でも、その教育方針、教育内容には大きな違いがある。
そのため、こうした論点から幼児教育の有用性が強調されると、いわゆる早期教育に拍車がかかる心配がある。
そこで森上史朗氏は、「無償化を入れるなら、教育の質を見直し、その質の中身を評価するシステムを整備しなければならないと」とクギを刺した。
評価される質とは、大きく分けて①条件の質(施設・制度等の環境、教職員の資質、給食など)、②プロセスの質(指導計画、記録、幼児の集中度・満足度など)のふたつがあるとも指摘し、いま問われている「学校評価」よりかなり踏み込んだ内容を提起した。
これもまた私立幼稚園関係者にとっては悩ましいところである。無償化と評価、さらに義務化によって個性豊かな幼稚園教育が画一化されるのではないかとの心配があるからだ。行政の監督や規制が強化されて個々園のダイナミズムが失われ、結果的に教育の推進力衰退や質低下につながる可能性も否定できない。
この私立幼稚園の疑問に対して、同研究会がどのような見解を示すことができるかも注目される。
次の第5回会合は9月29日(月)に行われる。
◇委員名簿
・座長 無藤隆(白梅学園大学教授)
・副座長 秋田喜代美(東京大学大学院教授)
・委員 稲毛律夫(江戸川区子ども家庭部長)
岩立京子(東京学芸大学教授)
岩淵勝好(東北福祉大学教授)
大竹文雄(大阪大学教授)
柏女霊峰(淑徳大学教授)
佐藤津矢子(高知県教委幼保支援課長)
森上史朗(子どもと保育総合研究所代表)
幼稚園情報センター 片岡 進