急浮上した厚労省の分割再編構想

実質的な“こども庁”誕生の期待も

2009年5月28日

★国民生活省・児童局に幼保を集約
2009年5月19日、麻生太郎首相は経済財政諮問会議で厚労省を分割再編する構想を打ち出し、その具体化を与謝野馨財務・金融・経済財政相に指示した。これが幼稚園・保育所関係者の間で波紋を広げている。分割再編構想の目玉に幼稚園・保育所の所管一元化があげられているからだ。
首相構想の基本は、医療・年金・介護を担当する「社会保障省」と、雇用・少子化問題などを担当する「国民生活省」に分割するというもの。そして国民生活省の中に内閣府と文科省の一部部局を取り込んだ「児童局」を新設して、ここで幼稚園、保育所、認定こども園を一元的に所管するとのことである。
半年ほど前、巨大化した厚労省について舛添要一厚労相が「一人ではとても掌握し切れない。三人くらい大臣が必要だ」と嘆いたことがあった。しかし今回の首相提案では事前に厚労相への相談はなかったようだ。舛添大臣が「どうして厚労省だけが対象になるのか?図体の大きいのは総務省、国土交通省も同じだ」と不快感を示していることからもわかる。そこで「首相の本当のネライは何か」と憶測が飛んでいるが、それこそ「幼稚園と保育所の問題に決着をつけ、少子化政策の流れを良くしよう」が第一のネライにあると言える。
折しも、内閣府に設置された「認定こども園制度の在り方に関する検討会」が、認定こども園を2年後に2,000園まで増やす具体策を提起し、5月18日には文科省の有識者会議(今後の幼児教育のあり方に関する研究会)が、保育所も対象となる3~5歳児の幼児教育無償化を提言する中間報告をまとめた。この機を逃さず幼保問題を取り上げ、歴代総理の誰もがなし得なかった幼保一元化を実現させたいというのが麻生首相の肚であろう。
★三元体制が定着してはいけない
今回以前に幼保問題に手をつけたのは小泉純一郎首相(当時)だった。2003年6月のことである。厚労省、文科省の双方が所管する財源をひとつにまとめて地方自治体に渡す、つまり幼保財政一元化策を「骨太方針2003」に盛り込んだ。ところが両省が強く抵抗したことから、小泉首相は鶴の一声で「じゃ、両方を兼ね備えた総合施設を内閣府所管でつくって、そこに幼稚園、保育所が移ってくればいい」と、現在の認定こども園制度を立ち上げた。結果は制度全体は内閣府、幼稚園部分は文科省、保育所部分は厚労省と、一元化どころか、さらにわかりずらい三元化管理になってしまった。このまま三元体制が定着すれば、少子化政策の足かせになるのは必至である。
そこで、幼保問題の経緯をよく承知している麻生首相、河村建夫官房長官、与謝野財務・金融・経済財政相の三氏が、阿吽の呼吸で厚労省の分割再編に動き出したと見ることができる。ふつう、厚労省の分割といえば旧厚生省と旧労働省に戻せばいいと思うが、それだと保育所を抱える旧厚生省の固いガードを崩すことができない。旧来とは違う形で分割し、保育所を福祉のカテゴリーから切り離すことが肝要なのである。そして文科省の幼稚園と内閣府の認定こども園、少子化対策を合流させて、子ども政策の総合拠点をつくるわけである。
全日本私立幼稚園連合会は、0歳から9歳までの子どもの生活と教育を一括所管する「子ども庁」を作ってほしいと提言してきたが、麻生構想の「国民生活省児童局」が誕生すれば、子ども庁ができるのと実質的に同じだと言える。
★幼稚園の学校体系位置づけはどうなるのか
幼稚園関係者の中には、「教育基本法、学校教育法の改正で、教育体系における幼稚園の位置づけが明確になったのに、文科省から切り離されたら、それも無に帰すのではないか」と心配する向きがある。しかし法体系と所管省庁の関係は別物と割り切って考えることもできるだろう。したがって幼稚園にとっては、現行の教育活動と位置づけが維持できるなら、デメリットは少ないと考えられる。
一方、学校体系への組み入れが期待できる保育所側は猛反発している。財政面のメリットも現状維持も見いだせず、児童福祉の側面が損なわれると危惧するからだ。それを受けて当の厚労相はじめ自民党厚労族、公明党が分割には慎重姿勢(正しくは反対姿勢)を示しているので、首相の旗振りとはいえ、そう順調にコトが運ぶとは思えない。
しかし、このチャンスを逃すと幼保一元化が遠のくのは間違いない。幼児教育・保育界の混迷が深まり、少子化がさらに進行し、私立幼稚園の存立基盤が危うくなることも心配される。仮に今回の厚労省分割再編が不調に終わった場合でも、まったく白紙に戻すのではなく、保育所の切り離しと幼保の所管一元化については実現への道筋を残してもらいたいものである。麻生、河村、与謝野、そしてその三氏の後ろ盾である森喜朗元首相の執念と手腕に期待したい。
幼稚園情報センター 片岡 進