★2011年通常国会での成立めざす
三党連立政府は2009年12月8日、「幼保一体化」への制度改正を行うことを決めた。これがあまり大きく報道されていないのは、2009年度第二次補正予算決定に際して閣議決定された「緊急経済対策」の一番最後にあげられていて目立たない感じになっているからだ。子どもの人間形成に関する重大な案件が経済対策として捉えられるのは割り切れないが、ともかく民主党主導の新政府はサイを投げたのである。それも2011年の通常国会で成立を図りたいとの計画なので忙しい作業になりそうだ。
決定した「緊急経済対策」で、「(6)国民潜在力を発揮する制度・規制改革」の部分に書かれている内容は次のとおり。
○幼保一体化を含め、新たな次世代育成支援のための包括的・一元的な制度の構築を進める。
○主担当となる閣僚を定め、関係閣僚の参加も得て、新たな制度について2010年前半を目途に基本的な方向を固め、2011年通常国会までに所要の法案を提出する。
○利用者と事業者の間の公的契約制度の導入、保育に欠ける要件の見直し、利用者補助方式への転換など利用者本位の制度を実現する。保育料設定の在り方は水準の在り方も含め制度設計の中で検討する。
○株式会社、NPO・社会的企業も含めたさらなる参入促進を図るべく客観的基準による指定制度の導入を検討する。
○施設整備補助の在り方、運営費の使途範囲・会計基準等の見直しは制度設計の中で検討する。
○これら制度における新たな給付体系の検討とあわせて、認定こども園制度の在り方など幼児教育、保育の総合的な提供(幼保一体化)の在り方も検討し結論を得る。
★中身は保育制度改革の推進がメインだが
内容は、厚労省の社会保障審議会・少子化対策特別部会(大日向雅美部会長=恵泉女学園大学大学院教授)が2009年2月に発表した保育所制度改革(第1次報告)に関わるものが多い。直接契約に切り替えるなどして利用者(親)の利便性を高め、企業の参入を促して施設数を増やし待機児童の解消を図ろうというものである。この改革案には保育所側の抵抗が強いが、それを引きずったまま旧政権の構想を継承する形になっている。
「幼保一体化」の文言はその最後に出てくる。それも旗振れどなかなか数が増えない「認定こども園」の制度見直しに触れてのことである。そのため「今までの幼保一元化論とはニュアンスが違う。そんなに気にすることはないだろう」との見方も多いが、タカをくくってはいけない。民主党はマニフェストに幼稚園と保育所を吸収する「子ども家庭省」の創設をうたっているので、その道筋を得るチャンスをいつも考えているはずだ。その過程で幼稚園の位置づけがおかしなことにならないよう、私立幼稚園はどんな小さなことにも注意を払っていく必要があるからだ。
認定こども園制度を見直す幼保一体化とは何だろう。考え方はふたつ。ひとつは誘導補助策の導入などで現行制度をテコ入れすること。もうひとつは、それに代わる新しい枠組みを考えることである。そして「包括的・一元的な制度の構築を進める」の言葉からは、その両者をミックスした政策が考えられる。
「幼保一元」ではなく「幼保一体」という用語の使い方にも注意が必要だ。それは幼稚園と保育所の所管や財政を一元化することではなく、「幼児教育と保育の一体化」を意味するものと思われる。保育所に幼児教育の要素を組み込むことは保育所保育指針の改訂で順次積み上げられてきたが、これを一気に進め、幼稚園そのものを保育所に取り込むということではないだろうか。条件を大幅に緩和して、現在の保育所を一斉に「保育所型認定こども園」に移行させるという特例措置である。
★保育所も最初の学校にする方策か
2006年の学校教育法改正で、幼稚園が学校教育のスタートだと明確化されたときからその心配はあった。現行の保育所のままでは、どんなに幼児教育を充実させても法的に最初の学校を卒業したことにはならない。これを解決するには、学校教育法の第1条に保育所を組み込むか、すべての保育所が小規模幼稚園を内包する認定こども園になるかである。厚労省にとっても保育所にとっても、現行の保育制度が維持できる点で後者の方式がベターだろう。保育所に子どもを通わせる親にとっては、「幼稚園卒業」が認定されるので安心できるわけである。
今回閣議決定された「幼保一体化」とは、まさにこのことを想定しているのではないかと思う。そうなると幼稚園はどうなるだろうか。特に保育所と競合する地方都市では幼稚園単独で存在することの意味が薄くなり、こちらも一斉に「幼稚園型認定こども園」にならざるを得ない可能性が高い。
幼保連携型と違って保育所型も幼稚園型も補助金の裏付けは明確ではないので、さほどの予算増を伴わずに一気に認定こども園を増やすことができるわけでもある。しかし保育所に手厚い現行の財政二元制度では私立幼稚園がハンディキャップを負うことになる。
つまり保育所に有利な一体化になる可能性が高いということである。閣議後の記者会見で、長妻昭厚労相は「幼稚園とも一元化するので、(幼稚園の意見も聞いて)早急に考えをまとめたい」と語り、川端達夫文科相は「引っ付ければいいというものではない。(話し合う)土俵を作ってしっかり議論していきたい」と語った。
厚労相が保育所主体で制度構築したいと前向きに考えているのに対して、文科相は「それにはウカウカ乗らないぞ」という慎重な姿勢が出ており、閣議決定に対する受け止め方の違いが現れている。文科省への援護射撃が必要だ。
すべての幼稚園、保育所を認定こども園にするのは「幼保の壁問題」を解決するひとつの方策ではあるが、子ども家庭省という同じ器に入れたとしても幼稚園が埋没していく心配がある。そうした事態を防ぐ援護射撃をするには、幼稚園が考える一元化・一体化の構想を積極的に打ち出し、国会議員やマスコミにレクチャーしていくことが肝要だ。たとえば「0〜2歳は保育所、3〜5歳は幼稚園」という単線輪切り構想である。その中身は次回配信の記事で詳しく紹介したい。
幼稚園情報センター代表・片岡 進