今こそ新・保幼一元化構想を打ち出そう

明快に「0〜2歳が保育所、3〜5歳は幼稚園」を

2010年4月11日
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泉  健太(いずみ・けんた)

泉 健太(いずみ・けんた)

内閣府大臣政務官(少子化対策担当)。1974年生35歳、北海道札幌市出身。京都3区選出衆議院議員(当選3回)。立命館大学法学部卒。大学在学中から弁論部の活動などで名を上げ、参議院議員秘書を経て国政に。民主党では少子化対策プロジェクトチーム事務局長などを経験し、今回の「子ども・子育て新システム検討会議」では事務局長および作業グループ主査として実質的なリーダー役を務めている。

★子ども・子育て新システム検討会議
政権交代から半年余りが過ぎた。鳩山内閣の支持率は急落し、先行き混乱必至の昨今だが、その中で幼保一元化に関する動きが活発に続いている。幼保問題の解決は長年の懸案事項だけに「政権交代を機に今度こそ」と国民の期待は高い。しかし内閣の命運を含め、先の読めない状況に幼稚園、保育所関係者の不安感も強い。
政府は昨年暮、「緊急経済対策」と「新成長戦略」を閣議決定し「幼保一体化」の推進を決めた。本年6月までに制度改正の基本を決め、2011年通常国会に法案を提出するとのタイムスケジュールも明らかにした。
「幼保一体化」の用語について一部メディアは、一元化と一体化を同意として使っているが、これは少し違う。一元化とは、ひとつの行財政制度に幼稚園、保育所をすべて流し込み、新たな幼保施設をスタートさせる大胆な再編イメージだ。対して一体化とは、現行の制度を維持したまま幼稚園、保育所がそれぞれ両方の機能を併せ持つ現状発展型で、それはつまり認定こども園のスタイルである。

★まずは内閣府に「子ども庁」
幼保一体化の方針決定を受けて、政府は「子ども・子育て新システム検討会議」を設置し作業を開始した。仙谷由人・国家戦略担当大臣、福島瑞穂・少子化対策担当内閣府特命大臣、枝野幸男・行政刷新担当内閣府特命大臣の三氏が共同議長を務める頭でっかちの会議だが、実際には事務局長と作業グループ主査を務める泉健太・内閣府大臣政務官の仕切りで進められ、学識経験者や団体の意見を聞きながら精力的に会合を重ねている。
その会議資料や議事録がHPに公開されている。それを見ると、やはりめざす方向は認定こども園制度のテコ入れで幼保一体化施設を増やし、当初目標の2000園くらい整ったところで内閣府に「子ども庁」を置いて幼稚園、保育所、認定こども園を管轄し、他の省庁再編と合わせて、それを「子ども家庭省」に発展させていく青写真のようだ。
小泉政権下で苦肉の策として生み出された認定こども園は、「とりあえず両方が共通の衣装を身にまとい、それから同じ制度に入っていこう、そうすれば衣装の下で引きずってきた軋轢を減らすことができる」という一元化への段階的手順だった。
その考え方は正しい。ところが制度維持にこだわる官僚体質が、四類型からなる複雑な制度に仕上げたため、喜んで食指を伸ばすことができなくなった。それどころか、制度に否定的な保育所側の抵抗で、幼稚園の認定希望がはねつけられる状況が各地で発生した。
そんな中でも、かろうじて私立幼稚園側の努力を中心に、幼保連携型、幼稚園型など358件(2009年4月1日現在)が認定されたが、「みんな揃って同じ衣装に」というイメージにはほど遠い。そこで自公政権が作った同制度をリフォームし、補助金も少し上乗せして、認定を受けやすく、運営しやすい認定こども園にしていこうというのが、民主党・幼保一体化構想の着地点だと想定できる。
政府は2010年1月29日、5年間で25万人の保育所定員を増やす「子ども子育てビジョン」を発表した。それを認可保育所の増設で対処するには膨大な費用がかかる。しかし認定こども園を増やす形なら、それほど大きなお金はかからない。仮に8000園の中の5000の私立幼稚園が定員30人の保育所を併設して認定こども園になれば、15万人の受け入れ枠が一気に生まれる計算だ。

★親の安心は、わかりやすい制度から
しかし保育所、幼稚園、認定こども園という三つの制度が併存する状況は、一般市民の目からはますますわかりづらいものになってしまう。どんなに細かな工夫を凝らしても、根本がわかりづらくてはとっつきにくいものである。子育ての迷いを払拭するというより、子育ての喜びをみんなで増幅させるには、制度は誰が見ても単純明快であることが一番だ。
当事者がこだわる違いは、保護者にとってはさほど大きな意味を持たないことが多い。「どうして全部、こども園に一本化できないのか」という声が出てくるのは当然である。しかし0〜2歳の養護と、3〜5歳の幼児教育には中身も環境もかなり大きな違いがあることは誰しも認めるところだ。
それなら、誰が見てもわかりやすい制度にするために、もう一歩踏み込んで、「0〜2歳は保育所、3〜5歳は幼稚園」という単純明快な単線制度にすることが望ましい。これは保育所の存在を配慮して大きな声にはなってこなかったが、多くの私立幼稚園関係者が“本音の願い”として長年抱いてきたことである。待機児童の問題を含め、幼保制度の抜本改革が求められる今こそ、その本音を打ち出すべきである。
幼稚園での預かり保育が一般化し、8割以上の私立幼稚園が実施している実情を考えれば、今すぐにでもその対応は可能だ。制度改革で幼稚園型認定こども園が増大すればなおさら問題はない。
また、この形なら幼稚園、保育所がこれまで培ってきたそれぞれの得意分野を生かすことができるし、3〜5歳を幼稚園に移すことで保育所に定員の余裕が生まれ、0〜2歳の受け入れ枠を増やすことができる。つまり0〜1歳に偏っている待機児童が大幅に減るという計算だ。それよりも、養護と幼児教育に対する国民の見方がすっきりして安心して子育てできるようになり、制度の壁だけでなく親同士の気持ちの壁も取り払うことができるという意味合いが大きい。

★「幼保」ではなく「保幼」の用語に
幸い「子ども・子育て新システム検討会議」の議論では、政務官からも専門家からも、6年間の乳幼児期を0〜2歳、3〜5歳に分ける考え方が再三示されている。機は熟せり、今こそ理想の論点を打ち上げ、本音の議論を進めるときである。
ここで大事なことのひとつに用語の問題がある。「幼保一元化」など従来から使われている「幼保」の使い方を「保幼」に変えるべきということだ。なぜか。0歳から保育所、3歳から幼稚園、6歳から小学校という年齢順の単線型制度を考えるなら、言葉も「保→幼→小」の流れにするのが当然だからだ。50音順からしても幼より保が先にきてしかるべきだ。
これまで頑固に「幼保」を使ってきた裏には、幼稚園関係者のエゴとプライドが垣間見える。その意識を捨てなければ、保育所関係者との歩み寄りは期待できない。
しかし、たとえ幼稚園側の意識を変えても「0〜2歳は保育所、3〜5歳は幼稚園」の改革案に、保育所は慎重姿勢を崩さないだろう。それどころか大きな反対運動を繰り広げることが予想される。0歳〜5歳まで一貫していた自分達の守備範囲が縮小させられると考えるからだ。
だが、そうした反対運動や議論は望むところでもある。現行の複雑型がいいか、単純明快型がいいか、国民が判断する材料を提供することになるからだ。そのためにも、年齢区分による「新・保幼一元化」の旗をそれぞれの幼稚園で高々と掲げることが肝要だ。そして政権を握る民主党議員への交渉とレクチャーを着々と進めること。それに取り組んでほしい。

※小誌はこの記事を機に、以後、固有名詞の引用以外、「幼保」 を「保幼」に変えて使うこととします。
幼稚園情報センター代表・片岡 進