★待機児解消に協力姿勢示す
幼保一体化の制度改革について議論を進めている政府の「子ども・子育て新システム検討会議」作業グループ(泉健太主査=内閣府大臣政務官)は3月29日と4月1日、関係団体からのヒアリング(意見聴取)を行った。全日本私立幼稚園連合会は4月1日、吉田敬岳会長、北條泰雅常任理事、それに(財)全日私幼研究機構の田中雅道副理事長が出席して意見を述べた。
【注】全日私幼連の意見内容は添付資料(PDFファイル)を参照してください。また他団体の意見書および専門研究者の意見、会議録などは内閣府の少子化対策HPを参照してください。
※全日私幼連の意見書はここをクリック(
PDFファイル)
※他の団体、研究者の意見書、議事録はこのHPを参照。
http://www8.cao.go.jp/shoushi/index.html
ここでは全日私幼連の意見書だけを取り上げる。他の保育所や認定こども園の団体の内容に比べると論点が明快で、わかりやすく整理されているが、その中身について情報センター流の解釈を加えたいと思う。
(1)すべての子どもは良質な教育を受ける権利がある。
ここでは、幼稚園が学校教育のスタートと位置づけられている(学校教育法第1条)ことを取り上げ、人間の生涯にわたる教育体系、人材育成を国家戦略として考えるなら、幼保一体化も教育つまり幼稚園を軸にした制度であるべきだと訴えている。
保育所関係者や、幼稚園、保育所を公平に扱いたいと思っている政治家には少々カチンとくるところだ。わざわざ言わなくてもいいのではないかと思うが、幼稚園の気概を示す上でどうしても言いたいことなのだろう。
(2)すべての親が人として成長するために。
幼児期は子どもが人間の土台をつくる時期であると同時に、親が成長する大事な時期である。これは誰もが認めるところだ。その意識から、日本の女性は子どもが産まれると仕事を休み、手がかからなくなると仕事を再開する傾向が強い。
その就業率の年齢推移の形が「M字カーブ」と呼ばれる。政府や産業界は、労働人口確保と消費増大のため女性の就労に休業を与えず、M字形を台形に変えたいとしているが、「M字カーブこそ人的社会資源充実の重要な命題」と打ち出している。今の時代、こうした意見を堂々と言えるのは幼稚園団体ぐらいしかなくなってしまった。
(3)認定こども園への障壁をなくす。
注目すべきはこの部分だ。私立幼稚園の大半はすぐにでも「認定こども園」に移行できるが、「幼稚園型認定こども園」の申請が行政の窓口ではね付けられる実情を率直に訴えている。これは幼稚園の参入を嫌う保育所側の意向が行政に働いているためで、その事実を聞いた大臣政務官らも驚いていたようだ。
保育所側の抵抗理由は、待機児童がいない中で幼稚園の認定こども園を認めると、園児の争奪が懸念されるということだが、親の選択権を広げるためにも、都市部で溢れている待機児童を周辺地域や地方で吸収するためにも、希望する園はすべて認めることが必要である。
ただここで全日私幼連が一番言いたいことは、「幼保一体化施設とはこういうものだ」と、細部まで全国画一の枠をはめ込むのではなく、その意図と子ども達の安全性が確保されるなら、地域性も考慮した幼稚園独自の対応と形で十分であるということだ。
具体的な事例としては給食設備がある。すべて自家給食の厨房設備を義務づけられると、その費用捻出が難しい場合があるからだ。実際、給食設備がなくても園児は幼稚園で昼食を食べ、夕方まで預かり保育を受けているのだから、持参弁当、仕出し弁当、給食センター、半調理型給食など、各園それぞれの工夫で問題はないはずである。
(4)すべての地域にとって幼稚園は重要なインフラ。
ここは、特に地方で、幼保一体化施設が広がる中で幼稚園の存在が消えてしまうことのないようにと釘を刺していると言える。
(5)機能に応じた助成体制が必要。
最後に、全日私幼連の持論である「同じ日本の子どもなのに、保育所に行く子と幼稚園に通う子で、国の財政支援に大きな差があるのはおかしいじゃないか」という論点を提示している。
特に今は、親の生活や職業上の事情で「保育に欠ける」子がいる一方、子育てより社会参加したいという親の人生選択で「保育に欠ける」状況を生み出しているケースが多い。これを同一の支援レベルに置くことは、仕事を中断してでも「家庭での子育て」を大切にしている親に対して極めて不公平である。
そして、やむを得ない事情で「保育に欠ける」場合でも、子どもの健やかな成長を願うなら8時間を限度にするべきだと述べている。
これもまた私立幼稚園しか言わない正論である。
★0〜2歳は保育所、3〜5歳は幼稚園に踏み込まず
全体の論調は、認定こども園に移行しやすく、柔軟で幅のある制度になるなら、私立幼稚園は長時間保育を希望する子どもを受け入れ、待機児童の解消に積極的に協力すると懐の大きいところを見せている。その上で幼児教育と家庭教育のあるべき姿に対しては従来のスタンスを堅持しており、姿勢も中身も評価できるものだ。
ただひとつ残念なのは、この意見書からも透けて見える「0〜2歳は保育所、3〜5歳は幼稚園」という、年齢区分による新一元化構想の言葉が具体的に出ていないことである。この言葉があれば、もっとはっきりと幼稚園の考えを打ち出し、メディアにも取り上げられて、「幼稚園と保育所はなんだかわかりずらい」という親のモヤモヤ感を払拭することができたはずである。
それを控えたのは、「まずは認定こども園から始めていきたい」とする同検討会議の道筋を最初から混乱させたくないという考えがあったのかも知れない。あるいは、あくまで昔ながらの幼稚園スタイルを守っていきたいという内部の声への配慮があったのかも知れない。
しかし今は、その一線を踏み越え、理想の灯を高々と掲げて邁進する勇気こそが私立幼稚園には必要だ。民主党政権と交渉する全日私幼連、そして地方議会議員と交渉する各幼稚園は、そうした馬力と過激さが必要だと思っている。
幼稚園情報センター代表・片岡 進