★幼保一体化で親の意識も一体化する
2010年4月26日(月)、東京永田町の星陵会館で行われた全国私立保育園連盟(黒田恭眞会長)の「子ども・子育てシンポジウム」。前半は内閣府政務官、民主党議員団の来賓挨拶、仙谷由人国家戦略担当大臣の講演、後半が「新たな制度構築を見据えて」と題するシンポジウムだった。来賓挨拶と仙谷大臣の講演内容全文は4月30日配信の記事で伝えたが、ここでは後半のシンポジウムの様子をお知らせしよう。
汐見稔幸氏(白梅学園大学教授&学長)がコーディネーターを務め、パネラーは中島圭子(連合・総合政策局長)、安藤哲男(資生堂人事部・事業所内保育所責任者)、矢野尚子(保育所の現役保護者)、木原克美(全私保連常務理事、京都市・御池保育所園長)の四氏。学者、企業、保護者、保育所そして労働組合の立場の人が顔を揃えた。
資生堂の安藤氏は、「少子化は将来、労働人口が減ってくるので企業にとって深刻な問題だ。だから仕事を続けながら子育ても両立させたいと頑張る社員を応援する。それが企業の社員に対する社会的責任と考えている」と述べた上で、「しかし制度があっても自分たちは利用できない、政府が旗をふってもいっこうに現実化しない、などで不満が溜まっている社員が多い。これを解消することが肝要だ」と訴えた。
また「今の認可保育所では多様なニーズに対応できない。だから私たちは事業所内保育所を立ち上げた」と、ワークライフバランスを第一義に考えているとしながらも、企業社会の現実に対応した保育制度の改革を求めた。
我が子を公立保育所に預けながらテレビ番組制作の仕事をしている矢野さんは、「入所を希望しても入れないのが一番の問題。4月に復職を予定していて、2月になって無理だと言われたら本当に困る。だからせっかく育児休業があるのに、早めに切り上げて保育所に預けようとする人が多い。それがまた待機児童を増やすことになる」と述べ、母親の間では市の担当者に出す陳情手紙の書き方や回数、窓口での泣き方などについて情報交換が行われている事例も紹介された。
また「自分は幼稚園を出たので保育所のことは知らなかったが、入ってみたら幼稚園とほとんど変わらないし、保育所独特の良さがあることもわかった。幼稚園の親、保育所の親はそれぞれの見方で線を引いている感じもあるが、幼保一体化になって、いろいろな人が利用できるようになることはとても良いことだ」とも述べた。
★かかりつけの「マイ保育園制度」を
保育所代表の木原氏は保育所と幼稚園に関わるさまざまな数値データを示しながら、「大人の都合で子どもの時間を振り回してはいけない。そして日本の子どもをどう育てていくかの理念をしっかり議論してほしい。理念のない制度設計は破綻する」と拙速で物事を決めようとする「子ども・子育て新システム検討会議」に苦言を呈した上で、「子どもが生まれる前から自分の保育園、幼稚園を選び、子育ての相談を継続して行える、かかり付けの小児科のようなマイ保育園制度ができるといい」と提案した。
コーディネーターの汐見稔幸氏は、的確に政策立案していくには課題をすべて洗い出した「プロブレムシート」を作り、ひとつひとつ丁寧に潰していくことが肝要だと指摘し、「ここでの議論でも、①財源、②財政支援の不公平、③ワークライフバランス、④保育の質の担保、⑤人材の確保などいくつもの課題が出てきた。新システムではこれらを明らかにし、それぞれの対処法を示してほしい」と述べた。
★フランスの家族手当金庫がモデル
もうひとつ、このシンポジウムで注目されたのは、連合の中島総合政策局長が提起した「子育て基金構想」である。詳しくは添付のパンフレット(添付資料1)を見てほしいが、要は、国、地方、事業主、個人から拠出され、さまざまな子育て支援事業にそれぞれのルートで支出している財源を、「子育て基金(仮称)」という財布に一旦まとめて、そこから子どもや保護者に現金給付または現物給付していく財政システムだ。
基金といってもお金を集めて運用するものではなく、省庁ごとに縦割り細分化されたお金の流れを1カ所にまとめることで、その使い道を必要に応じて調整しようというもの。窓口をひとつにすれば透明性が高まり、受給者側の手間も軽減されることが期待できる。
この構想は、子育てへの手厚い財政支援で知られるフランスの「家族手当金庫」をモデルにしたもの。同時に、4月27日(火)に行われた「子ども・子育て新システム検討会議」の第1回閣僚会議で示された制度設計の基本的方向案(添付資料2)では、「子育て関連の財源を子ども・子育て基金(仮称)に一本化する。そこから市町村に包括的に交付し、地方の財源とあわせて、市町村が地域の実情に応じ主体的に決定できる給付を実施する」となっており、この連合構想がベースになっている。
★幼稚園予算も含めた基金構想にすべし
ただ気になったのは、連合の基金構想には保育所と認定こども園に対する補助金は含まれているが、幼稚園に対する補助(お金の流れ)が含まれていないことだ。これについて中島氏に訊いてみたところ、「幼稚園に関する財源もここでまとめた方がいいのは当然で、最初の案では幼稚園が含まれていた。しかし各省庁に内々の打診をしたところ、この構想に対する文部科学省の姿勢が非常に硬かった。それで、とりあえず肯定的なところでまとめた。最終的には、できれば幼稚園も入った形にしていきたい」とのことだった。
私立幼稚園がかねて求めてきた「保幼一元化」は、保幼間の大きな財政格差を是正するため、両者の財源をひとつにまとめる一元化だったはずである。その意味では、連合構想は財政一元化への具体策を示したものと言える。しかしこれが今後、幼稚園が抜けたまま一人歩きするようだと、一般の人たちに「子育て論議で幼稚園はカヤの外」という印象を植え付けかねない。労働組合というこれまで付き合いのない組織ではあるが、ここはひとつ、全日本私立幼稚園連合会として連合とすり合わせを行い、より良い、より現実的な「子育て基金構想」に仕上げてもらいたいものである。
【添付資料1】連合の子育て基金構想(
PDFファイル)
【添付資料2】
子ども・子育て新システムの基本的方向案(
PDFファイル)
幼稚園情報センター代表・片岡 進