★独善的な政治姿勢にはブレーキ
7月11日に行われた参議院選挙、結果は民主党が大幅に後退し、新たなネジレ国会が生まれた。国政の混迷・停滞を嘆く声も聞かれるが、あたかもアフガニスタン・タリバン政権のような民主党政権にブレーキがかかったという点では、望ましい結果になったとホッとしている人が多い。私もその1人だ。
とはいえ選挙当初は、菅首相に交代して支持率が急回復したので、半ばあきらめの暗黒時代を覚悟していた。しかし国民は的確にジャッジを下した。メディアの多くは敗北要因を「首相が唐突に打ち出した消費税の増税論議だ」としているが、それは見えやすい事例のひとつであって、民主党政権が抱えている大きな危うさを国民が嗅ぎ分けたのが最大理由だ。
危うさとは、すべて机上の理屈で物事を進めようとする独善性だ。八ッ場ダム、高速道路無料化、子ども手当、そして保育所・幼稚園に関わる「幼保一体化」などにその傾向が強く表れている。
衆議院305議席(2010年7月12日現在)という圧倒的な数があるから「今までできなかかったことができる」というのが強気の背景だ。しかし党内でこれらの政策を議論をした形跡は見あたらない。ごくごく一部の人間だけで、国の基本に関わる大きな政策が独善的に進められている。その一部の人に訊くと、「いや、これは野党時代に党内議論を尽くした」と言うが、国民から見えないところで行われた議論に何の意味があるだろうか。昨年夏の総選挙で大挙当選した新人議員にとっては、まったく預かり知らない中身でもある。
自民党の時代は、重鎮議員に「そんな話、私は聞いていない」と言われれば構想も法案もあっさり潰れるので、党内の意見調整はしつこいほどに行われた。それゆえ物事がなかなか決まらない、状況がちっとも改善されないという問題も生んだが、それをまったく省略して独断専行するのは無茶な話で、「政権をとれば何でもできる」という思い上がった暴走と言わざるを得ない。
★民主党こそ聞く耳を持つべし
今年4月27日、子ども・子育て新システム検討会議が「こども園構想」を打ち出したとき、全日本私立幼稚園連合会と全国私立保育園連盟は東京赤坂の全日空ホテルで共同記者会見を開き、「子どもの成育に関わる重要な問題なのだから拙速で決めないでほしい。現場の声もよく聞いて慎重に議論してほしい」と訴えた。それに応える形で同会議は6月4日、幼稚園から株式会社の施設まで10の団体代表者を集めて「意見交換会」を開催した。
ところがその中で、同会議の主査であり事務局長である泉健太内閣府大臣政務官(京都3区選出衆議院議員)は、「皆さん方の意見は“こうしてほしい”という要望であったり、“これは疑問だ”という細かな問題指摘に終始している。そうではなく、自分の立場を離れて、もっと高い次元で子どもの問題を一緒に考えてほしい」と釘を刺した。もっともな正論にも聞こえるが、それは「あなたたちの細々した意見は聞かない」と突っぱねたわけでもある。その二日前、鳩山首相は「私が何を言っても国民は聞く耳を持たなくなった」と言って辞任したが、「聞く耳を持たないのは民主党の方だ」というのが実態である。
それはともあれ、その意見交換会を経て6月25日に「子ども・子育て新システムの基本制度案要綱」が発表された。多少言葉に配慮が加わったとはいえ、「能力優秀な日本の女性にもっともっと働いてもらわないと困る」という労働政策、経済成長戦略を優先する基本理念に変わりはなく、子どもの健全な育ちへの視点、あるいは保育所・幼稚園関係者がこれまで営々と積み重ねてきた実績はまったく無視された内容だ。
しかし今回の選挙結果によって、法案がそう簡単には通らない仕組みができた。これまでは権力横暴な民主党に対して、どの業界団体も伏し目がちな感じだったが、これからは目を見据えて自分たちの意見をぶつけ、頑として譲らない姿勢を示すこともできる。
★与野党の法案が取引と妥協で成立する
野党との間でも堂々と協議することができ、それによって政府与党提案の法案にダメ出しをしたり、修正を加えることも可能だろう。といっても議席数では過半数を割ったとはいえ、得票率では民主党はまだまだ高い数値を維持している。それを忘れてはいけない。今後、民主党の国会運営は、個別の政策ごとに野党と協議し、法案成立の取引をしていくことになるだろう。郵政改革法案における国民新党との取引のスタイルである。一般に取引と妥協を「政治的手法」と呼ぶわけなので、政治の世界では、それはあたりまえのことである。
「こども園法案」も当然、野党の主張や法案との取引に使われ、当事者の意向が十分に反映されないままに成立してしまうことがあるかも知れない。「どんな状況でも一寸先は闇、それが国会だ」と昔から言われるが、自民党と公明党で衆院3分の2を持っていた時より、今回のネジレ国会の方が闇は深いといえる。
そうした闇取引から私立幼稚園を守っていくためには、与党民主党としっかりパイプをつなげていくのはもちろんだが、自民党にも、公明党、みんなの党に対しても、地方議会に至るまで、同じ距離感、同じスタンスでパイプを作り、現場の意見をぶつけ続けていくことが肝心だ。かつて自民党と深い関係にあった全日本私立幼稚園連合会にとっては、今回の参院選を機にぶれないスタンスを確立することができるかどうか、それが緊急の課題といえる。
幼稚園情報センター代表・片岡 進