来年3月の国会提出を照準に

「幼保一体化こども園構想」の動き加速へ

厚労省・小宮山洋子副大臣が新たな仕切り役

2010年10月6日
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小宮山 洋子(こみやま・ようこ)

小宮山 洋子(こみやま・ようこ)
厚生労働副大臣。東京6区(世田谷区)選出民主党衆議院議員(当選4回、参院当選1回)。
1948年9月18日生まれ62歳。東京都出身。成城大学文芸学部国文科卒。NHK解説委員を経て政界入り。参議院環境委員長、衆議院青少年特別委員長、民主党財務委員長などを歴任。実父は元東大総長の加藤一郎氏、母方祖父は元大蔵大臣の青木一男氏。

★作業グループに三つのワーキングチーム
民主党の代表選が終わり、菅改造内閣がスタートした。ねじれ国会の足枷を引きずっている上、対中摩擦、検察不正、円高、沖縄基地などの問題を抱え、土俵際に追い詰められた政権だが、一方では「幼保一体化・こども園構想」をめざす内閣府の子ども・子育て新システム検討会議も新たな展開を見せている。
ひとつは同会議の作業グループ(副大臣・政務官級会合)の下に、6月25日に決定した「子ども・子育て新システム基本制度案要綱」の中身を具体化させる三つのワーキングチーム(WT)ができたことである。
①「基本制度WT」は制度全体の検証と財政(給付)の仕組み、国の「子ども・子育て会議(仮称)」の運営方法などを具体化するもので、22人の構成員には私立幼稚園代表として全日私幼連の北條泰雅副会長(東京都・みなと幼稚園)が参加。
②「幼保一体化WT」は、こども園の中身、機能、設置形態などを詰めるもので、20人の構成員には私立幼稚園代表で入谷幸二政策委員長(東京都・徳持幼稚園)が参加。
③「こども指針WT」は幼稚園教育要領と保育所保育指針の合体作業を行うもので、16人の構成員には私立幼稚園代表で(財)全日私幼研究機構の田中雅道理事長(京都府・光明幼稚園)が参加している。
(各WTの詳しい所管事項と構成員一覧は文末添付の“子ども・子育て新システム「検討体制」”を参照いただきたい)
すでに閣議決定しているスケジュールに合わせる形で、2011年1月までに「基本制度WT」が9回、「幼保一体化WT」「こども指針WT」が3~4回の会合を開く。そして同年1月末に法律案大綱を決め、3月上旬に法案を提出し、6月の通常国会終了までに成立させる段取りだ。成立すると、こども園への移行・準備期間を置いたうえで、2013年4月から新こども園がスタートすると見込まれている。(詳しくは文末添付の“子ども・子育て新システム「今後のスケジュール」”を参照のこと)
ワーキングチームの設置は、「もっと開かれた議論を」「拙速を避けてじっくり検討を」の声に応える体裁をとったものだ。しかし慌ただしい日程は、国民の目からは「あれよ、あれよ」という間に決まってしまう感は否めないだろう。
また当初、ワーキングチームの名称は「検討会」となっていたが、「“そもそも論”が出てくるような検討会では困る。筋書きどおりに中身を組み立てる実務会合でなくてはいけない」との横ヤリで変わったと見られる。要は、民主党政権の非民主的手法にお墨付きを与えるカモフラージュ装置になる可能性が高い。そんな中で私立幼稚園の委員がどこまで頑張れるか、一縷の望みを託したい。

★労働政策の色彩、さらにはっきりと
もうひとつの注目点は、作業グループの仕切り役が変わったことだ。これまでは内閣府の泉健太政務官(京都3区・衆議院議員)と文科省の高井美穂政務官(徳島2区・衆議院議員)が中心になって舵取りをしてきたが、内閣改造で両氏が退任したため、内閣府の末松義規副大臣(東京19区・衆議院議員)と厚労省の小宮山洋子副大臣(東京6区・衆議院議員)が務めることになった。
舵取り役が政務官から副大臣に格上げされたのは、この「こども園構想」を、政権交代で変わったことのシンボルにしようという意図が見える。自民党時代の50年間で実現できなかった幼保一元化が、民主党の手で実現できたとなれば、これは確かに国民の耳目を集める画期的なことと言える。
中でも一番張り切っているのが小宮山洋子氏だ。NHK解説委員当時から労働政策、女性の社会参加を専門にしてきた方で、同氏のメールマガジンによると、この幼保一体化は自らが政策をつくってきたと公言している。
「新システムは、子どもの育ち、教育の視点がなく、経済成長戦略、労働政策、雇用対策の観点からのみ考えられている」と多くの人が指摘しているが、小宮山氏と仙谷由人氏(内閣官房長官)のタッグで生み出されたものなら、うなずける話である。そして小宮山氏の表舞台登場で、「子育て中の母親も子どもを預けて工場に行くべし」という労働政策の色彩がますます強くなっていくことが心配される。

★保護者、卒園児、地域の方々に異論の声を
こうした民主党の段取りと姿勢に対して、私立幼稚園関係者は「そんなこと簡単にできるわけがない。実現は無理だよ」と高をくくる楽観派と、「弱った弱った、幼稚園の看板を大切にしてきたのに、こども園になるなんてやり切れない」という悲観派、そして「そうか、じゃこの機会に認定こども園になって移行をスムーズにしよう」という現実派の三つに分かれている観がある。
「これはおかしい、最初のボタンが違っている。一から考え直すべきだ」「年齢区分にして幼稚園、保育所の名前と実績を生かしていくべきだ」という反対論や対案が、現場当事者からも学識者からもまったく出てこないのは何とも寂しいことである。
是が非でもこの法案を通したいという民主党政権の姿勢を考えると、たとえねじれ国会といえど、日本中から異論の声がわき上がってこないかぎり、政治的闇取引によって法案が成立してしまう可能性は大きい。
疑問を感じている理事長さん、園長さんは、どうか臆せずに声を出してほしい。自園の教職員、在園児保護者、卒園児、地域の方々に「新システムはおかしい。これでは日本の子ども、家庭、社会を根本からダメにしてしまう。子ども達の幸福、母親の笑顔が失われてしまう」と繰り返し話してほしい。楽観論でも悲観論でもなく、まずは声を出す、行動する。それが肝心だ。そんな小さな力の結集が政治状況を変えるパワーになることを信じてほしい。

※子ども・子育て新システム「検討体制」(PDFファイル)
※子ども・子育て新システム「今後のスケジュール」(PDFファイル)
幼稚園情報センター代表・片岡 進