幼児教育と小学校教育の円滑な接続

「幼小接続」協力者会議が報告書まとめる

「学びの芽生え」から「自覚的な学び」へ

2010年12月11日

★こども園構想に牽制的意図も
幼稚園と小学校の間にある階段を上手にのぼり、幼稚園で培った学びの芽を小学校でたくましい苗木に育てていくにはどうしたら良いか。それを検討していた文科省の「幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方に関する調査研究協力者会議」は2010年11月11日(木)、報告書を髙木義明文科相に提出して幕を閉じた。(報告書の内容は末尾の添付ファイルを参照のこと)
3月19日から始まった同会議は10月15日まで計13回の会合(報告案検討ワーキンググループの3回を含む)を開いて終了した。7ヶ月弱。この種の協力者会議としては異例のスピードだったと言える。
その理由は、民主党政権が提起した「幼保一体化・こども園構想」に対する牽制の意図が込められていたからと思われる。つまり「幼児教育と小学校教育は密接に繋がっている。それなのに文科省から切り離し、労働政策の観点から幼児教育全体を内閣府に持っていくのは教育体系の一貫性から問題がある」と指摘し、幼稚園が文科省あるいは学校教育法から分離されることを食い止めようとする狙いである。
といってもここで言う「幼児期の教育」は幼稚園だけではない。「本報告書における『幼小接続』は、幼稚園と小学校という学校同士の接続はもとより、保育所、認定こども園といった幼児期の教育を担う施設で行われる教育と小学校教育の接続も考慮した上で用いている」と繰り返し書かれている。幼稚園を繋ぎ止めることによって、同じく幼児教育を行う保育所と認定こども園も文科省の所管に取り込みたい、あるいは一旦三者が内閣府に移ってこども園になった場合でも、先々にまとめて取り戻したいという深い狙いが込められているとも言える。

★理解の道筋と具体的方策を提起
委員は下記の21人。大学教授などの研究者が10人、幼稚園関係者が4人、保育所関係者が3人、小学校関係者が2人、認定こども園関係者が1人、市教委関係者が1人という構成。計5回の全体会で全員がそれぞれの視点、論点でプレゼンテーションを行い、そこから意見集約の議論が重ねられた。
幼児教育と小学校との関係は、小1プロブロムなどが顕在化するずっと以前から「幼小連携」あるいは「保幼小連携」として議論されてきた。連続性の認識をより高めるため「連携」から「接続」へと用語が変わった経緯もある。したがって、文科省の2009年11月調査を見てもほとんどの地方自治体が「幼小接続」の重要性を認めている。
しかし「わかってはいるが、何をどう具体化するかまでは手が回らない」という状況が続いていて、「教育課程上の接続の取り組みを行っているのは」都道府県で23%、市町村では20%にとどまっている。そのため現場レベルでも「年に1回程度双方の教師が見学交流する」「年長児が小学校を訪問したり活動に体験参加する」という形で終わっているケースが多い。
そこで今回の協力者会議では、もう一歩踏み込んで「幼児期から児童期にかけての教育のつながりを理解するための道筋を明らかにし、幼小接続の取り組みを進める具体的方策を提起する」ことが主眼となった。

★教育委員会のリーダーシップに重点
その結果明らかにされたことは、幼児期の教育は遊びの中から生まれる「学びの芽生え」、児童期の教育は教科等の授業を通した「自覚的な学び」という違いがあるが、学びの芽がしっかり根付いていないと小学校からの学習展開が広がらないということ。また、すでに多くの小学校で行われているスタートカリキュラムの意義が改めて強調され、その編成にあたっては幼稚園、保育所、認定こども園とよく連携すること、個々の児童に対応した取り組みであること、などを訴えている。
幼児教育と小学校教育の違いを明らかにし、「一方が他方に合わせるものではないことに留意すべし」と指摘していること、あるいは幼児期の「学びの芽生え」を大切にしようと記述している意味合いには、小学校の学習を先取りした幼稚園での板書型教育や特訓型指導に警鐘を鳴らしているとも言える。
もうひとつ注目される点は、「都道府県や市町村の教育委員会が連携・接続に関する基本方針や支援方針を決め、各学校、施設はそれを踏まえて取り組みを進めることが望ましい」としていることだ。見ようによっては公権力の介入強化とも思えるが、さまざまな業務で手一杯の校長、園長、教師を引っ張り出して同じテーブルで議論する従来スタイルに比べると、双方の実情をよく知っている教育委員会がリーダシップを発揮する方が実効性があると言える。
しかし一方では、教育委員会が私立幼稚園教育の多様性に枠をはめていくことにもなりかねない心配があるので、その点の意思疎通と連携には十分注意を払っていくことが必要だ。ともあれ大急ぎでまとめられた今回の「幼小接続」報告書が、幼保一体化・こども園構想の動きにどんなクサビを打ち込むことができるか、その波紋を注目したいものである。

【委員名簿50音順】 ◆=座長 ◇=副座長 ※=検討ワーキンググループメンバー
・赤石元子(東京学芸大学附属幼稚園副園長)
◇秋田喜代美※(東京大学大学院教授)
・岩立京子(東京学芸大学教授)
・榎沢良彦(淑徳大学教授)
・太田早津美※(名古屋市立東志賀保育園園長)
・岡上直子※(練馬区立光が丘さくら幼稚園園長、元・全国国公立幼稚園園長会会長)
・押谷由夫※(昭和女子大学教授)
・神長美津子※(東京成徳大学教授、元・文科省幼児教育課教科調査官)
・岸本佳子(神戸大学附属幼稚園副園長)
・木下光二※(鳴門教育大学大学院准教授)
・河野秀樹(さいたま市教育委員会主任指導主事)
・嶋田あけみ(大田区立久が原保育園園長)
・角田元良(聖徳大学大学院教授)
・奈須正裕※(上智大学教授)
・北條泰雅※(東京都・みなと幼稚園理事長&園長、全日本私立幼稚園連合会副会長)
・向山行雄(中央区立泰明小学校校長・同幼稚園園長、全国連合小学校長会会長)
◆無藤 隆※(白梅学園大学教授)
・柳 恒雄(上越教育大学附属小学校副校長)
・山本勝義(神奈川県・わくわくの森保育園園長)
・湯川嘉津美(上智大学教授)
・若盛正城(埼玉県・認定こども園こどものもり園長、まつぶし幼稚園理事長&園長、全国認定こども園協会会長)

※報告書の全文(文科省ホームページへリンク)

※報告書の概要(PDFファイル)
幼稚園情報センター・片岡 進