新たな展開に入った「こども園構想」

「総合こども園」は「認定こども園」に路線変更

具体化イメージは参議院の審議に注目

2012年7月1日
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細川律夫(ほそかわりつお)

細川律夫(ほそかわりつお)
弁護士、民主党衆議院議員、党代議士会長、党社会保障・税一体改革調査会長。埼玉3区・当選7回。1943年8月生まれ高知県吾川郡出身。明大法学部卒。元厚労相。

鴨下一郎(かもしたいちろう)

鴨下一郎(かもしたいちろう)
医師(診療内科)、自民党衆議院議員、党政調会長代理。東京13区・当選6回。1949年1月生まれ東京都足立区出身。日大医学部卒。厚生労働副大臣、環境相などを歴任。

★元厚労相らの三党修正協議
衆議院「社会保障・税一体改革特別委員会」での行方が注目されていた「総合こども園法案」は、民主・自民・公明の三党修正協議で取り下げられ、代わって現行「認定こども園法」の改正案が、消費税率引き上げ法案と共に6月26日(火)、衆議院を通過した。
特別委での120時間余の審議を踏まえて行われた修正協議。中心になった実務者メンバーは民主党が細川律夫(党代議士会長、元厚労相)、長妻昭(東京7区、党筆頭副幹事長、元厚労相)、自民党が鴨下一郎(党政調会長代理、元環境相)、加藤勝信(岡山5区、党厚生労働部会長)、公明党が石井啓一(比例北関東、党政務調査会長)の5人。2012年6月15日(金)に最終決着した合意内容のうち、子育て関連3法案に関する部分は下記のとおり。

(1)認定こども園法の一部を改正する。
①幼保連携型認定こども園は、単一の施設として認可・指導監督等を一本化した上で、学校および児童福祉施設としての法的位置づけを持たせる。
②幼保連携型認定こども園は、既存の幼稚園および保育所からの移行を義務づけない。
③幼保連携型認定こども園の設置主体は、国、地方公共団体、学校法人または社会福祉法人とする。
(2)子ども・子育て支援法案を修正する。
①認定こども園、幼稚園、保育所への共通の給付(「施設型給付」)を創設し財政支援を行う。
②民間保育所は、現行どおり市町村が保育所に委託費を支払い、利用者負担の徴収も行う。
③保育の必要性を市町村が客観的に認定する仕組みを導入する。
④指定制に代えて都道府県による認可制とし、大都市部の保育需要の増大に機動的に対応できる仕組みを導入する。社会福祉法人および学校法人以外の者に対しては、認可基準への適合、経済的基礎、社会的信望、社会福祉事業の知識経験に関する要件を満たすことを求める。その上で、欠格事由の該当や供給過剰の場合を除き、認可する。
(3)保育所での保育については、市町村が保育の実施義務を引き続き担うこととする。
(4)内閣府において子ども・子育て支援法および改正後の認定こども園法を所掌する体制を整備することなど所用の規定の整備を行う。
(5)法案の附則に以下の検討事項を盛り込む。
①幼稚園教諭の免許および保育士の資格について、一体化を含め、そのあり方を検討する。
②質の高い教育・保育の提供のため、幼稚園教諭、保育士および放課後児童クラブ指導員等の処遇の改善について検討する。
③幼児教育・保育・子育て支援の質・量の充実を図るため、安定財源確保に努める。
④この法律の施行後2年を目途として、総合的な子ども・子育て支援を実施するための行政組織のあり方を検討する。
⑤次世代育成支援対策推進法の平成27年度以降の延長を検討する。
(6)幼児教育・保育・子育て支援の質・量の充実を図るため、消費税率の引き上げによる財源を含めて1兆円超の財源確保に最大限努力する。
以上だが、詳しくは確認書原文を確認のこと。

★連携型は名称をひとつに統一か
この中で(1)ー①は、現在の幼保連携型認定こども園が幼稚園、保育所、こども園と三つの名称を持つ三面体であるのを、どこから見てもひとつの施設とし、名称も統一することを示唆している。つまり現状で「認定こども園・○○幼稚園」という登録名称になっていれば、幼稚園を母体にした認定こども園であることがわかるので問題ないが、「認定こども園・△△の森」「認定こども園・□□の広場」などと登録されている場合、せっかく幼稚園の制度が残っても、伝統ある幼稚園名が隠れてしまう可能性があるということ。今後の具体的取り扱いを注視したい。
大学、高校関係者からも心配された株式会社、NPO法人等の学校体系参入は、(1)ー③で明確にシャットアウトされた。問題は正規の幼稚園として認可され、長い実績を持つ個人立、宗教法人立の幼稚園が、例外扱いで連携型認定こども園になれるかどうかだが、これは国会審議で確認する必要がある。

★さらに緊急性高まる株式会社対策
一方で(2)ー④は、自治体の考え方によって保育所への株式会社参入を認めていなかった市町村でも機械的に認可していくことを意味している。この後押しで株式会社、NPO等の保育事業参入が拡大するのは間違いない。それは幼稚園での職員採用がますます難しくなることを意味しており、私立幼稚園全体で株式会社対策に取り組むべき緊急性は高まったと言える。
また株式会社立保育所は、利用者増の観点から、特に地方都市で保育所型認定こども園(認可外幼稚園の併設)に移行するケースが多くなると想定できる。同じ「認定こども園」の看板を掲げる施設になるので、保護者の間に混同・混乱が生ずることも心配される。
(5)ー④は「子ども家庭省(仮称)」の設置を意味するものだが、今はまだ方向性も中身もほとんど議論されていない。また子どもと家庭の問題を小学校の前と後で切り分けることにも問題があるため、法施行から2年間の検討で具体化されるとは考えにくい。
(5)ー⑤は子育てのためのワークライフバランスを意味している。この部分こそ、消費税率引き上げ問題どころでなく血の出るような国民的議論が必要だ。しかしそこまで踏み込めるかどうか、行方を注目したい。

★補助制度は総合こども園とほぼ同じ
(6)の財源確保は、(2)ー①の補助制度にも関わるものだが、これは総合こども園で考えられていた内容がそっくり移行することになりそうだ。つまり四類型の認定こども園には、こども園給付から名を変えた「施設型給付」という園児への直接補助が給付され、それを施設が代理受給する形である。これによって、従来ほとんど助成のなかった幼稚園型認定こども園にも、相応の補助金が入ってくることが期待できる。
認定こども園にならない私立保育所には従来通りの委託費が交付され、私立幼稚園には私学助成と就園奨励費補助金が交付されて、今までと同じ経営が保障されることになっている。
総合こども園で盛んに使われた「インセンティブ(財政誘導)」という言葉がまったく聞かれなくなったが、民主党政権および官僚の思惑を考えると、無言のうちにインセンティブを効かせてくる可能性は高い。
今後、認定こども園法改正案、子ども子育て支援法修正案は参議院の審議を経て延長国会終了までに成立する見込みだが、その審議を通じて、補助体系の詳細を含めた新しい制度のイメージが明らかになっていくことを期待したい。

※三党合意確認書(PDFファイル)

※「新・認定こども園」について幼稚園情報センターの見解と提言(PDFファイル)
幼稚園情報センター・片岡 進