「認定こども園の拡充」は「総合こども園」?

成立した「新こども園」関連法の先行きは不透明

「システムで子育てはできない」と橋本聖子氏

2012年9月10日

★看板変われど中身は変わらず
 「総合こども園」から「認定こども園の拡充」に看板を掛け替えた「新こども園関連法」は、消費税率引き上げ法とともに2011年8月10日、参議院本会議で可決成立した。
 この法律、一般には「子ども子育て関連三法」と呼ばれている。しかし同法案は「幼保一体化・こども園構想」を柱にワーキングチームで約2年間議論されてきた。それゆえ当初は「総合こども園関連法」とも呼ばれていた。幼保一体化が柱である構造は変わっていない。それなのに法律の略称から「こども園」の文字が消えたのは解せない。
 「『総合こども園』の名称は消えた。かといって『認定こども園改正関連法』では従来法の手直しのようでインパクトが弱い。それならいっそ『こども園』の文字を外そう」と考えたのかもしれない。いやそれより、「こども園」に対する関心、注目を薄める中で具体化を静かに進めていきたいという内閣府の思惑が働いていると推測できる。
 「総合こども園」でもなく「認定こども園」とも違うなら、「新こども園」あるいは「新認定こども園」の文字を組み込むのが妥当だ。そこで幼稚園情報センターでは「新こども園関連法」と呼ぶことにした次第である。
 なぜ内閣府の人たちは制度の具体化を静かに進めたいのか。それは、看板は変わったが中身は「総合こども園」とほとんど同じだからである。それが広く知れ渡ると「三党合意は何だったのか?」という議論が蒸し返され、話がややこしくなる心配があるからだろう。
 ねじれ国会なので野党の同意がなければ法案は成立しない。そこで与野党修正協議が行われ三党合意ができた。自公は自分たちが2006年にスタートさせた認定こども園制度を継続させるべきと考えた。片や民主は総合こども園制度の基本線が守られればいいと考えた。結果、自公は名をとり、民主は実をとった形で折り合いがついたのである。

★理念と原則は守られたが…
 もちろん変わった点もある。大きくは次の三つである。
(1)「総合こども園」は指定制によって幼稚園、保育所のこども園移行を強力に進め、現行制度をフェイドアウトさせて、こども園制度に一本化することを前提にしていたが、「認定こども園」では幼稚園、保育所制度が将来にわたり維持される。
(2)「総合こども園」は母親の就労促進、日本の経済成長を第一に考えていたが、その意図が薄められ、「認定こども園」を議論した当時の、子どもの生活、教育を優先する姿勢になった。
(3)学校教育体系(認可幼稚園)への株式会社参入がシャットアウトされ、幼保連携型認定こども園への株式会社参入がなくなった。
 つまり看板掛け替えによって幼稚園教育の理念と原則が何とか守られた形である。ただし(3)については、保育所型および地方裁量型認定こども園には株式会社参入が認められ、また認可保育所への株式会社参入も今より広がるので、保育事業界での学校法人、社会福祉法人、株式会社の三つ巴経営競合が激化し、特に職員確保がますます厳しくなることが予想される。

★重要な問題点を引きずって
 では変わらなかった部分は何か。これも大きくは次の三つである。
(1)0〜5歳の社会福祉法人立保育所の大半が幼保連携型認定こども園に移行し、「こども園=保育所」のイメージが広がる。現行制度では保育所が幼保連携型認定こども園に移行するには新たに幼稚園の認可を得ることが必要だったが、その必要なく移行できる。
(2)認定こども園、幼稚園、保育所に対する補助制度を「施設型給付」に一本化する。これは原則、子どもに対する直接補助(給付)で、これを施設が法定代理受領して運営費にあてる。(当初案の「こども園給付」が「施設型給付」に名称変更しただけ)
(3)新制度の実施主体は市町村であり、施設の運営、財政も市町村が所管し、私立幼稚園に対する市町村の関与が大幅に強まる。
 「変わらない部分=民主党政権が守った制度構造の基本線」とはつまり、「議論が足りない」と指摘し続けてきた問題点の部分である。これでは実際に施設を運営、経営している現場が混乱し困ってしまう。そこで成立した新こども園関連法には計19項目、2100字におよぶ付帯決議が付けられた。「補助制度のあり方」から「ワークライフバランスの啓発」まで、どれも幼稚園、保育所団体の意見・要望を考慮して具現化するよう求めている。

★19項目の付帯決議
 たとえば、最初にあるのが補助制度の問題で「施設型給付は幼保間の公平性を図ること。子どもの数にかかわらず施設が存続できる配慮が不可欠」と訴えている。施設型給付は、入園する子どもの数で補助総額が決まるドライな仕組みである。ある意味、公平とも言えるが、幼稚園と保育所の間では相変わらず必要以上の単価格差が残るので、「子どもを預けて働きに出た方がお得」という意識を生みやすい。また園児の増減がストレートに経営に反映するので、「とにかく子どもの数をたくさん確保しよう」という、なりふり構わぬ経営感覚が強まることも心配される。それに警鐘を鳴らしているのが1番目の付帯決議である。非常に大きな問題で、これだけでも関係者の合意を得るには長い議論が必要だ。
 そのほか付帯決議19項目の全文は添付のPDFファイルを見てもらいたい。政府に設置される「子ども子育て会議」でこの内容を検討し整理した上で、2015年4月から法律が施行される。その後は各都道府県の「子ども子育て会議」で対処をしていくことになるが、「新こども園」の具体的中身がどうなるか、まだまだ不透明と言わざるを得ない。
 この現在の状況を雑誌『あんふぁん』のFAXニュース「園ふぁん」(第265号)に簡潔にまとめたので、参考までに添付します。

★衆議院と参議院で違ったこと
 ところでこの法案、衆議院から参議院に移った段階で変わったことがもうひとつある。「新システム」という言葉が使われなくなったことである。「子ども子育て新システム=幼保一体化・こども園」のタイトルで議論され、議論の場も「子ども子育て新システム検討会議ワーキングチーム」だったのにである。
 先鞭をつけたのは、参議院本会議で代表質問を行った橋本聖子参議院議員だった。衆議院段階では自公の議員も抵抗なく「新システム」という言葉を使っていたが、橋本氏はこれを一切使わず「新制度」で通した。代表質問の様子は添付の音声ユーチューブを聞いてもらいたい。
 「制度」という言葉には権威や伝統の押しつけを感じさせる要素がある。それを嫌って民主党はあえて「システム」に変えた。しかし「システム」には運行システムとか製造システムなど、人間を疎外した機械的なイメージがある。そこで橋本議員は「システムで子育てができるわけがない」と指摘する意図で、システムの言葉をすべて「制度」に切り替えた。それが参議院全体に理解を得たと思われる。さすがに良識の府・参議院である。そして6人の子どもを育てた肝っ玉オリンピック母さんの心意気に大いに拍手した次第でもある。

※19項目の参議院付帯決議(PDFファイル)

※FAXニュース「園ふぁん」265号(PDFファイル)

橋本聖子議員の参議院本会議代表質問(音声ユーチューブ)


幼稚園情報センター・片岡 進