総選挙圧勝で自公政権が復活

「幼児教育無償化」の実現に期待高まる

私立幼稚園は結束強化の正念場に

2013年1月14日
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下村博文(しもむらはくぶん)

下村博文(しもむらはくぶん)
文部科学大臣。東京11区(板橋区)選出自民党衆議院議員(当選6回・町村派)。1954年5月生まれ群馬県高崎市出身。早稲田大学教育学部卒。元学習塾経営者、元東京都議会議員。文部科学大臣政務官、内閣官房副長官、自民党副幹事長などを歴任。

2012年総選挙の自民党政権公約表紙。経済再生に続くAction2が教育再生で、その第二番目に「幼児教育無償化」が掲げられている。

2012年総選挙の自民党政権公約表紙。経済再生に続くAction2が教育再生で、その第二番目に「幼児教育無償化」が掲げられている。

★新こども園の軌道修正も
 2012年12月16日、ようやく実施された“早いうち総選挙”で、自民党・公明党は予想を超える議席数を得て政権に復帰した。3年半の間、民主党政権によって翻弄された日本社会が落ち着きを取り戻し、正常化していくことを期待したい。
 幼稚園・保育所も「幼保一体化・総合こども園構想」によって翻弄された。何とか押し返して、現行の認定こども園制度を拡充する「新こども園」(子ども子育て支援新制度関連三法)で決着したが、民主党の労働政策優先思想は色濃く残っている。何をさておいても子どもの利益・幸福感を大事にしてきた日本の伝統文化を足蹴にする思想である。とはいえ自公民の三党合意で決着した法律なので、白紙に戻す、あるいは基本形を大きく変えることは難しいかも知れない。しかし12月26日に発足した第二次安倍内閣の顔ぶれを見ると、安倍晋三首相はもとより、麻生太郎副総理&財務相、下村博文文科相、田村憲久厚労相、新藤義孝総務相ら幼児教育・保育制度の実情と歴史に精通している人が多く、たしかな軌道修正が期待できる。
 「幼児教育の充実こそ国家経営の基本」と考えてきた自民党は、2005年の総選挙から、政権公約に「幼児教育の無償化」を掲げてきた。今回も教育政策10項目の2番目にあげている(1番目は6・3・3・4制を見直す学制改革)。そして12月27日、下村文科相は文科省での最初の記者会見で、冒頭に「高校教育無償化の内容是正」と「幼児教育無償化の早期実現」を打ち出した。
 現在、高校教育無償化には約4000億円の予算が投ぜられている。日本を教育国家として建て直すには、高校・大学等の無償化も必要ではあるが、限られた財源を効果的に使う、あるいは教育政策の恩恵を早く子ども達と社会に還元することを考えれば、真っ先にやるべきは幼児教育の無償化である。

★2009年5月にまとまっていた具体策
 「幼児期に良質な教育を受けた子どもほど、社会的、経済的に自立した人間に成長し、安定した人生・家庭を築く。幼児教育への投資効率は高校、大学への投資よりずっと高い」という権威ある研究報告(米国ヘックマンレポート)もあるが、日本人は、会津藩の「什」、薩摩藩の「郷中」を持ち出すまでもなく「三つ子の魂百まで」の大切さを身にしみて知っている。
 2009年5月、文科省は専門家会議の集中審議を経て、幼児教育無償化の具体策を中間報告の形でまとめた。それをもとに政策決定、概算要求と運ぶ段取りだった。ところがその年8月に政権交代が起き、民主党は高校無償化に舵を切った。それまでまったく国民的議論がなかったテーマである。「自分達は違うんだ。自公政権の敷いた路線には乗らない。自公が幼児教育なら、こちらは高校だ」という思慮なき単純発想であったことは言うまでもない。
 しかし間違った政治判断とはいえ、高校無償化はすでにスタートした制度なのですぐにストップさせるわけにはいかない。そこで所得制限の導入や教育内容の充実に徐々にシフトしながら、4000億円を高校教育のために有効に使っていこうというのが自公政権の考えである。
 となると幼児教育無償化の財源はどうするのか、という心配が残る。これについて安倍総裁は選挙公示の翌日、12月5日の街頭演説で「幼稚園・保育園での幼児教育無償化をお約束する。ちゃんと財源もあります」と述べた。これは、消費税引き上げ分の中から、新こども園制度のために手当てされる予定の7000億〜1兆円の財源を指しているものと思われる。

★「公定価格」と連動する
 新こども園制度では、標準的経費をもとに保育料の「公定価格」を設定し、それをもとに幼稚園、保育所が子どもに代わって受け取る「施設型給付」を行うとなっている。この算定作業で、幼児教育に関わる標準的経費もおのずとわかってくるので、その部分をすべて施設型給付の対象にすれば、下村文科相の言うとおり幼児教育無償化は早期に実現する。安倍総理の発言は、そのことを指しているのだと思う。
 視点を変えて、財政割合の内部調整を行うということだが、すでに教育部分の実質的無償化ができている保育所、公立幼稚園の場合は、全体額でさほどの影響はない。それに対して私立幼稚園は公的財政の比重が高まるので、この点での議論、あるいは前政権勢力からの反論が出てくる可能性がある。
 幼児教育無償化の実現に安倍政権が憂いなく取り組めるかどうか、求められるのは私立幼稚園の結束である。認定こども園への移行、あるいは公定価格、応諾義務などには異論もあるだろうが、それを乗り越えて政権を支えていく力強さが必要だ。2013年は私立幼稚園団体活動の正念場と言える。
 もうひとつ、個々の幼稚園で心がけておくべきことは、「幼児教育無償化」という言葉が保護者の間に急速に浸透していることだ。早合点して入園料、施設費、教材費、給食費、スクールバス費などを含め、幼稚園に納める費用がすべて無料になる、と思っている保護者も少なくない。この点については早めに保護者会を開いて、正しい情報を繰り返し説明するよう心がけてほしい。

2012年12月27日「下村博文文科相記者会見」(You Tube)
2009年5月18日「幼児教育無償化中間報告(概要)」(PDF)
幼稚園情報センター・片岡 進