日本記者クラブで成長戦略スピーチ

安倍首相、「育児休業を3年間に」を提示

子育て経験を女性活躍のキャリアに

2013年5月19日

★認可外保育施設への支援強化
2013年4月19日(金)、安倍晋三首相は東京日比谷の日本記者クラブでスピーチを行った。213年前のこの日、伊能忠敬は自らの足で日本地図を作るため北海道に向けて旅に出た。55歳のチャレンジだった。それを例に「どんなに困難なことでも、あきらめない強い意志があれば必ず乗り越えられる」と始まった話の中身は、金融緩和、財政出動に続く経済政策(アベノミクス)の第三の矢、成長戦略についてだった。
「成長戦略の中核は女性の活躍です」と強調して、その環境整備のために保育所待機児問題を解消すると安倍首相は言った。ここまでなら過去の政権と同じだが、「育児休業期間を3年間に延長したい。すでに経済団体に要請した」と加えた。これが今までとは違う。やはり安倍首相の周辺には、官僚とは視点、発想の違う専門家がいると感じられた。
待機児解消の数値目標は、認可外保育所、20人未満の小規模保育所、幼稚園の長時間保育(預かり保育≒幼稚園型認定こども園)への財政支援を強化して、2014年度末までに20万人、2018年度末までに計40万人分の受け皿を増やし、待機児がピークになると見込まれる2019年度に備えるとのことである。従来の目標が認可保育所の増設に偏っていたのに比べ、実情を踏まえた適切なバランスだと言える。
親が認可保育所を希望するのは、そこに公の財政資源が集中されているからだ。それだけ保育環境が整っていると思われるし、できるだけ条件の良いところにわが子を預けたいと思うのは、親として、税金を払っている市民として当然のことだ。しかし認可保育所を増やすと、それ以外の保育施設の経営に影響を及ぼして条件格差が広がり、ますます認可保育所への入所希望を増やす悪循環にも陥っていた。
補助金がゼロもしくは極端に少ない施設に認可保育所と同等の財政支援を行えば、親の負担は同程度になり、場合によっては保育環境が認可施設を上回ることも想定できる。そうなれば認可保育所を希望する親は減り、これまで懸命に頑張ってきた認可外保育所、幼稚園の苦労も報われるというものである。

★休業期間の切り上げも無用に
そして育児休業期間の延長である。親の気持ちは、できれば自分の手で育てたい、子育ての喜びも苦しみも十分に経験して人間として成長したいと思っている。「そういう願いを持っている人が6割だ」と安倍首相も言及した。
しかし現実は、その願いも半ば、1年〜1年半で職場復帰しなければならない。それも休業満了まで待って保育所に入れなかったら大変だと、半年余りも切り上げて入所希望を出す。それがまた待機児を増やす結果になっている。休業期間が3年になれば、年少から預ければいいので、幼稚園でも保育園でも十分に受け入れ可能である。休業期間をフルに使え、職場復帰へのウオーミングアップもできる。待機児はガクッと減ると想定される。
さらに安倍首相は「子育ての経験を、次の人生、仕事へのキャリアとして生かしてほしい」と言った。実際、新たに会社を起こすなど、ビジネスの第一線で活躍している女性は、子育てを通じてよりたくましく、より賢くなった人が多い。休業期間の延長は事業所の理解と協力が必要なので時間がかかるかも知れないが、政府および保育関係者は、この主張を繰り返し打ち出していくことが肝要だ。
ところが、この1週間後、4月26日(金)に開かれた第1回子ども子育て会議(無藤隆議長=白梅学園大教授)で驚くような光景があった。
同会議は、新認定こども園、施設型給付などを柱にした「子ども子育て支援新制度」の詳細を審議決定していく機関だが、首相の記者クラブスピーチを受けて、待機児解消計画の説明があった。厚労省職員からの詳しい説明だったが、相変わらず認可保育所の増設が中心で、幼稚園の長時間保育については最後に一言、さらっと触れただけだった。育児休業の延長については一言も言及がなかったのである。
これには、北條泰雅委員(東京都・みなと幼稚園理事長、全日本私立幼稚園連合会副会長)が、「私立幼稚園は預かり保育で待機児解消に協力すべく取り組んでいる。その意欲をしっかり組み込んでほしい。また育児休業の延長は待機児問題に大きな意味を持つ。解消計画にきちんと書き入れ、推進スケジュールを出してほしい」と訴えた。今後、首相の考え方、バランス感覚を官僚の人達が、どこまでくみ取り、どう生かしていくか、注意していかなくてはならない。

※4月19日、安倍首相のスピーチ(YouTube)
※4月26日、第1回子ども子育て会議の様子(内閣府HP動画)


幼稚園情報センター・片岡進