全埼私幼連の設置者・園長研修会(2日目)

田中雅道氏「施設型給付の移行は2016年4月以降に」

山﨑明弘氏「2015年度中に耐震対策100%達成を」

2014年7月12日
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山﨑明弘(やまざき・あきひろ)

山﨑明弘(やまざき・あきひろ)
埼玉県総務部学事課長。

田中雅道(たなか・がどう)

田中雅道(たなか・がどう)
(公財)全日本私立幼稚園幼児教育研究機構理事長。全日本私立幼稚園連合会副会長。京都市・光明幼稚園園長。

平原隆秀(ひらはら・りゅうしゅう)

平原隆秀(ひらはら・りゅうしゅう)
(公社)全埼玉私立幼稚園連合会名誉会長(前会長)。春日部成就院幼稚園理事長。元・全日本私立幼稚園連合会副会長。

★幼稚園の素晴らしさをいつまでも
 2014年5月30・31日、栃木県鬼怒川温泉で行われた(公社)全埼玉私立幼稚園連合会(四ツ釜雅彦会長)の定時総会&設置者・園長研修会。研修2日目は山崎明弘氏(埼玉県総務部学事課長)の講演「私立幼稚園の現状と課題」から始まった。山崎課長は、「子ども・子育て支援新制度」について概略を報告したほか次のようなことを話された。
 「私は私立幼稚園を卒園しました。娘二人も私立幼稚園でお世話になり順調に成長できました。妻と結婚するときお互いの子育て観、人生観を話し合い、子どもは自分たちの手で育てようと確認しました。それは間違っていなかったと思います。風当たりの強い昨今ですが私立幼稚園はどこも素晴らしい教育を行っています。新しい制度になっても、本来の幼稚園教育の良さ持ち続けてください。
 埼玉県の私立幼稚園数は、園数はピーク時の620園から551園に減りました。園児数は16万人から11万人になりました。これは県内3〜5歳児の60.4%にあたり、その96.5%が私立幼稚園に通っています。保育所に在籍する3〜5歳児は5万5千人。子ども全体の29.3%です。在籍率を10年前と比べると幼稚園が59.6%から60.4%、保育所が22.8%から29.3%になりました。たしかに保育所の伸びは大きいですが、幼稚園も横ばい、いや微増しています。保育所志向の風が強いと言われる中、埼玉県の保護者はまだまだ幼稚園を支持しているのです。
 経営状況は消費収支比率で見ると全法人の平均が89.6%です。90%までは健全とされますので経営面でも頑張っていることがわかります。100%を超える赤字経営も2割余りありますが、この割合も全国的に見ればずっと良い状況です。
 課題は園舎の耐震化です。耐震対策の済んでいる幼稚園は73.8%で、こちらは全国の77.8%に比べて低い状況です。いつ起こるかわからない地震です。特に幼児を預かる施設として急いでください。2015年度中には100%を達成したい。補助金予算も十分に確保してあります。自己資金不足で踏み切れないところもあるようですが、低利融資による耐震補強なら自己資金ゼロでもできます。月々の返済も低負担です。できれば耐震建築で建て替えたい気持ちはわかりますが、まずは耐震補強をお願いします。この問題を含め何でも学事課に相談してください。埼玉県は私立幼稚園をしっかり応援します」

★幼稚園型ならいつでも移行できる
 続いての講師は(公財)全日本私立幼稚園幼児教育研究機構の田中雅道理事長。「認定こども園への移行と公定価格」をめぐる最新情報とその対応について次のようなことを話された。
 「試算表が示され、該当枠に自園の園児数、地域などを入れると公定価格がわかるようになりました。保育所に適用している財政の仕組みを幼稚園に当てはめたものです。これを大まかに見ると、園児数120人以下の幼稚園は従来の私学助成より施設型給付額の方が増えそうです。でも120人以上の場合は私学助成より減ることになりそうです。当面、新たな財源は0〜2歳児に重点的に使われ、3歳児も増額されますが、4、5歳児にまでは回ってこないようです。
 園児数180人のモデル事例だと基本給付は約6000万円です。これにチーム保育分、調整手当分などが加算されますが、問題は従来の超過負担を考慮して市町村がどう対応するかです。就園奨励費制度から離れた場合、第二子、第三子の1号認定子どもをどうするかも決まっていません。ここがはっきりしなくては保護者負担(保育料)が決められません。各市町村は9月以降に条例を作るようですが、それでは次年度の入園児受付に間に合わないかも知れません。園の判断で施設型給付に移行して、その結果保育料が高くなったのでは保護者に申し訳ありません。
 公の基準で同じ2号認定を受けた子どもが、保育所に通う場合と幼稚園に通う場合とで保護者負担に違いが出ることは絶対に許されないことです。この部分の市町村の動きをしっかり注目し、違う場合は必ず是正してください。
 このように新制度は不安定要素が多いので2015年4月からの移行には無理があると言わざるを得ません。意向調査では2016年4月以降に移行するとした方が良いでしょう。
 遅くなると待機児がいなくなって認定こども園になれないとの心配があるようです。あるいは幼保連携型はそうかも知れません。でも幼稚園はどこも20%くらいの子が預かり保育を受けています。この子たちは2号認定を受ける待機児です。だから幼稚園型への移行ならいつでも大丈夫です。幼保連携型より運営に柔軟性がありますし給付額に差はないので、認定こども園への移行は幼稚園型が良いでしょう。
 現在、日本の幼稚園の平均園児数は150人です。新制度は、いずれ日本の幼稚園はほとんどが100人以下になると見込んだ対策です。OECD諸国で幼稚園の平均園児数が100人を超えているところはありません。100人の幼稚園が運営できる体制にするという点では、新制度は機能するものと思います」

★後継者4人が体験と抱負を語る
 最後は若手経営者による体験発表会。地域ごとに後継者4人が次々に壇上に立ち、15〜20分間、幼稚園経営を引き継いだ経緯や幼児教育にかける思いを語った。いきなり親からバトンを渡された人もいれば、ほかの幼稚園や高校教師として修行してから引き継いだ人もいる。いったん幼稚園に入ったものの、自分に足りない部分を感じて企業で5年間働いてから戻った人もいる。経験内容はさまざまだが、いずれも人間的な面白さとたくましさを感じさせるものだった。
 総会&研修会の最後に行うこのスタイルは埼玉県独特で、平原前会長の発案から生まれた。埼玉には名誉会長みずから塾長を務める「彩宝塾」という後継者鍛錬の場がある。「彩の国さいたま」にちなんだネーミングである。ここで勉強し交流を重ねるうちに人材が発掘され磨かれてきたと言える。参加した同年代の経営者には共感を得るものがあり、親世代の経営者は「なるほど後継者はこんなことを考えているのか」との発見がある。
 4人の報告を聞いて、平原名誉会長は多少辛口の講評を行ったが「埼玉県にはこんな若手がたくさんいます。私立幼稚園の未来は大丈夫です。これからも結束して進んでいきましょう」と締めくくった。

【付録】
※山﨑明弘氏の講演の様子(YouTube動画)
※田中雅道氏の講演の様子(YouTube動画)
※田中雅道氏講演内容に関する参考PDF資料(月刊『仏教保育』巻頭コラム)
※若手経営者体験発表会の様子(YouTube動画)
幼稚園情報センター・片岡進