子ども達にファンタジックな世界を

オリジナルの影絵紙芝居をつくろう

「劇団すぎのこ」の制作指導DVD

2015年3月3日

★「チロリン村とくるみの木」から50年
 テレビやビデオで何でも見られる時代ではあるが、子どもはやっぱり人の匂いが好きだ。アニメを見ている三歳児に、パパが「絵本を読んであげよう」と言うと、あぐらの中に飛び込んでくる。パパがオナラをすると一時避難するがすぐに戻ってくる。
 だから幼稚園で先生が読む紙芝居は楽しい。お誕生会での先生ミュージカルはもっと楽しい。プロの劇団がやって来たりすると、子ども達は息をするのも忘れ、舞台の隅々まで頭に焼き付ける。テレビとは違う生の空気、役者の息づかいが子ども達を圧倒する。人形が動き、音楽がある。歌う人、ギターをひく人がいて、音響の人、照明の人がいる。夢のような総合舞台芸術が展開されるのである。
 昔はそんな劇団がたくさんあって幼稚園を巡回していた。ポンコツライトバンには芝居道具のほかに鍋釜、七輪、寝袋が積まれ、幼稚園で寝泊まりしていた。同じようにリュックひとつで幼稚園を放浪していた記者は、何度も彼らの夕食にご相伴させてもらった。創立から50年を超えた劇団すぎのこ(小澤幸雄代表/本部=東京池袋)もそのひとつである。
 同劇団のルーツは1956年から8年間、NHKテレビで放映された『チロリン村とくるみの木』。黒柳徹子、増田喜頓ら錚々たる声優陣をそろえた人気番組で、小学生だった記者は夕方になるとテレビのある家を訪ねて覗き見させてもらった。
 東京オリンピックが開かれた1964年、番組が終了すると、劇団やまいもに所属して人形操作を担当していた若者達が、「人形劇の楽しさを幼稚園に出前しよう」と立ち上げたのが「劇団すぎのこ」だった。
 それから50年、幼稚園にも大型テレビやプロジェクターが普及して巡回公演から撤退する劇団が相次いだが、劇団すぎのこは今も複数のチームを組んで日本全国を廻っている。幼稚園・保育園での公演は8万回(年間平均1600回)を超えた。その地道な活動に対して2011年、松尾芸能振興財団から第32回松尾芸能賞が贈られた。同賞は舞台活動に関わる人たちにとってもっとも権威あるものである。
 一方で劇団すぎのこは1980年、公益財団法人すぎのこ文化芸術振興会を設立し、人形劇や民話劇の継承に努めてきた。具体的には幼稚園教師、保育士に対する講習指導、中国、韓国、台湾、ベトナムなどの児童文化関係者との交流などである。独自の宿泊研修施設も二カ所つくった。
 近年、特に力を入れているのが影絵紙芝居の制作指導である。シルエットとカラー光彩を組み合わせた影絵は、独特のファンタジーを子ども達に与える。そのオリジナル作品を幼稚園の先生方につくってもらおうと手引きのDVDを提供している。「影絵紙芝居の作り方」のDVDを見ると、幼稚園教師とおぼしき二人の若い女性に、影絵指導者・上田順一氏が丁寧に作り方を指導している。これを見ると、影絵のことだけでなくカッターの使い方、糊の性質、貼り方なども知ることができる。
 できあがった影絵紙芝居の演出法、プロジェクターによる発展活用法なども紹介されている。六つの作品例には全編にオリジナル曲が流れており、この音楽センスが先生方を刺激することは間違いない。職員室に備えたいDVDセット(全4巻/各巻3000円)である。
 2014年8月2日、劇団すぎのこは東京月島のスペイン料理店で創立50周年祝賀会を行った。国内の演劇、舞台関係者はもちろん政府要人、外国大使まで劇団を支援する幅広い人脈が集まった。冒頭、創設当初から在籍するベテラン劇団員が三河漫才を披露した。こうした名人芸を見習おうと若い劇団員も頑張っている。幼稚園に夢を運ぶ劇団すぎのこのますますの活躍を期待したい。

【添付資料】
※劇団すぎのこHP
※50周年祝賀会の様子(YouTube動画)

幼稚園情報センター 片岡 進