赤ちゃんの笑顔から始まる人間愛

詩人・関洋子の親子論『赤ちゃんは神様』

祖父母にとって子育て再発見の一冊

2018年4月11日
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『赤ちゃんは神様』/関洋子著/講談社エディトリアル刊/A5判220頁/1500円+税。

『赤ちゃんは神様』/関洋子著/講談社エディトリアル刊/A5判220頁/1500円+税。

関洋子(せき ようこ)

関洋子(せき ようこ)
1936年長野県生まれ千葉県育ち。詩人、東京都中野区・やはた幼稚園、同・やはたみずのとう幼稚園の副園長。日本で唯一のプロ詩人&幼稚園教師。息子が理事長、その嫁が園長、孫が八幡神社の禰宜を務めている。

アメリカの長寿テレビドラマ『クリミナルマインド』

アメリカの長寿テレビドラマ『クリミナルマインド』で異常犯罪を追うFBI行動分析課の捜査官チーム。捕えた犯人のほとんどが乳幼児期の親子関係、家庭環境に問題を抱えていた人。ドラマでは「何故そうなるのか」までは描かれていない。『赤ちゃんは神様』で解き明かしてもらいたい。

★母親は子どもの充電器
 プロの詩人であり、東京都中野区・学校法人八幡学園やはた幼稚園、やはたみずのとう幼稚園(認定こども園)の副園長でもある関洋子さんは、1995年の創刊以来、『月刊私立幼稚園』に詩を提供くださっています。地球への畏敬、親子の絆、子どもの可能性をテーマに、ベテラン幼稚園教師ならではの鋭くも暖かい言葉で、幼稚園生活のヒトコマを、200篇余りの詩に紡いでくれました。
 多くの詩集を刊行し、学校教科書や文芸誌に掲載されることも多い関洋子さんですが、初のエッセイ集がこの『赤ちゃんは神様』です。やはた幼稚園は、鎮座960年の歴史を持つ中野区大和町の八幡神社と隣り合う“神幼一体”の幼稚園。関さんは八幡神社の権禰宜でもあり、どこの国の子どもであれ、やはた幼稚園の園児であるかぎりは“神の子”と扱われます。そんな気持ちのこもったタイトルです。
 本の中身はずばり「親子論」。母と子、父と子の関わりの大切さを切々と綴ります。特に子どもが三歳になるまでの母親の存在感を訴えています。子どもが求めてきたら、何か用事をしていても手を止めて抱き上げ、話を聞いてあげる。親は子どもの充電器ですから、いつもそばに居てあげることが肝心です。親に抱きしめられた子どもは、新たなパワーが充満し、また自分の遊びに戻っていきます。「いつでもどこでも子どもを受け止める気持ちの余裕こそが子育てのすべて。それができれば子どもは健やかに育つ。できないはずはない。親にとって、それにまさる仕事はないのだから」と関さんは言います。

★今も生きる母の強さと情熱
 エッセイ集は、関洋子さんの両親の出会いから始まります。親の決めた結婚を間近に控えた母親でしたが、たまたま親戚の家で出会った男性(父親)に惹かれ、雪深い12月の夜中、実家を抜け出して彼のもとに走りました。戦前の日本社会では許されないことでしたが、それをあえてやってのけた母の強さは、関洋子さんの詩に息づいています。洋子は三女。仲良し両親の愛情を受けて大らかに育ちました。しかし戦争が激しくなり、母と子はやむなく母親の実家に疎開しました。ルールを破った娘ですから、そこは針のムシロです。それでも母子は懸命に生きましたが、6人の子どもを残して、母親は洋子8歳の時に他界しました。終戦の1年前でした。
 この、両親がいた8歳までの暮らしが、関洋子さんの親子論の土台になっています。その意味で、この本は80年の人生と60年の幼稚園人生を綴った叙事詩と言えます。詩人の文章ですから、文体は歯切れよくテンポよく、流れるように言葉が染み込んできます。もしこの文体とテンポで「幼稚園教育要領」が書かれていたなら、日本の幼稚園教育はもっと素晴らしいものになるだろうとも思ったものです。
 もちろん詩も入っています。全部で12篇。まさに関洋子人生哲学のエッセンスといえる作品です。私はすべてをスマホのメモ帳に書き写し、いつでも見られるようにしました。
 本全体の内容は、現役の親世代にとっては、これまで接してきたさまざまな子育て論と似たようなものに思えるかも知れません。しかし違います。文体だけではありません。関洋子さんの実感と表現が、ほかの人達と違うのです。その違いと深みがわかるのは祖父母世代です。我が子ではわからなかった子育ての真髄が、還暦を過ぎた頃からようやく見えるようになります。その思いと反省がストンと結びついて、「ああ、これだ、これだ」と納得できるのがこの本です。まずは祖父母の方々に読んでもらい、それを我が子に伝え、孫育てに生かしていく。そのための絶好の書です。

★英訳して全世界に伝えたい
 2005年から続く米国の人気テレビドラマに『クリミナルマインド』があります。日本でもレンタルビデオの人気作品です。連続殺人や大量殺人という異常犯罪を追いかけるFBI捜査官の物語ですが、その犯人の95%は乳幼児期の親子関係、家庭環境に問題のあった人達です。でも捕まって服役しても、彼らの心の傷が癒えることはありません。刑務所を出ると、また同じことを繰り返す空しい物語でもあります。日本と違って、そんな生々しい現実を飽きることなく訴え続けるのが、アメリカ流の啓発活動なのでしょう。毎回のドラマは、最初と最後に、詩人や哲学者の言葉が紹介されます。そこに関洋子さんの詩が加われば、どんなにいいだろうと思います。いやそれより、『赤ちゃんは神様』を丸ごと英訳して、世界中の人達に読んでもらいたい、そんな思いに駆られた本でした。
幼稚園情報センター 片岡 進